ufu(ウフ)スイーツがないと始まらない。

若手パティシエから見る働き方の多様性。 “自分もみんなもハッピーに” 『Carpe diem(カルペ・ディエム)』河村望心の大きな夢とは

これまで数々の名パティスリーを取材してきた「ウフ。」。しかし、名だたるシェフも、脚光を浴びる前は必ず“若手時代”を過ごしてきました。

そこでチョコレート欲が高まるこの時期に合わせて、20代~30代前半の若手ショコラティエに着目。才能あふれる3名の方に取材。なぜ、パティシエ・ショコラティエという道を選んだのか。現在の歩み。そして今後の目標を聞きました。

若手パティシエから見る働き方の多様性。 “自分もみんなもハッピーに” 『Carpe diem(カルペ・ディエム)』河村望心の大きな夢とは

最終シリーズとなる今回は、パティシエになって11年目の河村望心パティシエ(29歳)。2021年12月にオープンして以来、数々のメディアに取り上げられる『Patisserie Chocolaterie Recit(パティスリー ショコラトリー レシィ)』に勤務。並行して自身のブランド『Carpe diem(カルペ・ディエム)』のシェフパティシエとして活動しています。一般的には同一のパワーを注ぐのは難しいとされる兼業。しかし、そんな中なぜこのような働き方を選んだのか。そこには、“幸せ”を主軸とした河村パティシエならではの大きな野心と、夢がありました。

今回は、お菓子を通して、自分も周囲の人も幸せにしたいと考える河村シェフを取材しました。

入学式に大学中退?!パティシエを目指すきっかけとなった青春ストーリー

若手パティシエから見る働き方の多様性。 “自分もみんなもハッピーに” 『Carpe diem(カルペ・ディエム)』河村望心の大きな夢とは

広島で生まれ育った河村パティシエ。子供の頃は、甘いお菓子はあまり好きじゃなかったそう。なのになぜパティシエに?

聞くとそこには、淡い青春の思い出がありました。

河村パティシエ「実は、当時付き合っていた彼女の誕生日プレゼントに、洋梨のタルトを作ったのがこの道に進むきっかけです。その当時は、大学を入学式の日に退学してからずっとフリーターで、高価なプレゼントを買う余裕もなかったので。笑

ただ、このプレゼントに彼女が思いのほか喜んでくれました。その姿を見て、お菓子を通じて人を喜ばせられるパティシエになろうと決意しました。それまで、自分探しのために1年間で仕事を30~40種類ほど経験したのですが、予想外な見つけ方でしたね」

それから河村パティシエの地元である広島中のケーキ屋さんを片っ端から回った河村パティシエ。結果、一番美味しいと感じた『MATILDA Patisserie & Chocolaterie(パティスリーマチルダ)』で働き始めました。その後、フランスで長きに渡る修業を積んだ日本洋菓子界の巨匠の1人、市原董永氏のお店『ポワブリエール』で3年間。そして、レストランでシェフパティシエを2年間勤め、東京へ上京。

若手パティシエから見る働き方の多様性。 “自分もみんなもハッピーに” 『Carpe diem(カルペ・ディエム)』河村望心の大きな夢とは

河村パティシエ「僕は、ダメだなって思うととことん嫌になってしまうタイプなんですけど。パティシエという仕事に限っては、自分も相手も幸せにする仕事だと、ずっと思っています。これは僕にとって一番大切なこと。

パティシエは一般的に労働環境が過酷なイメージがあると思いますし、僕にもそういう時代がありました。鍛えられたという意味で、僕にとってはあってよかったと思います。でも、出来ることなら今後パティシエを目指している人には、不要なストレスは感じて欲しくない。誰もが、自らの成長にコミットできる環境作りをしていきたい。そのためにも、今は僕自身が技術や経験を磨いていかなければいけないと思っています」

広島から25歳で東京へ上京し最初に勤めたのが、フランスのノルマンディー地方のお菓子を基本とした老舗パティスリー『ルポミエ』。そして現在の『パティスリー ショコラトリー レシィ』へと移りました。

2つの仕事をかけ持つ理由

若手パティシエから見る働き方の多様性。 “自分もみんなもハッピーに” 『Carpe diem(カルペ・ディエム)』河村望心の大きな夢とは

河村パティシエが独自のブランドをスタートしたのは2020年から。『Maison Rapport(メゾン・ラポール)』という名で、レシピ提供やお店への卸売りなどを中心に活動していました。その後、インスタグラムで『パティスリー ショコラトリー レシィ』を発見。次々と投稿されるクリエイティブなお菓子の数々に感銘を受け、オープンスタッフとして入社。同時に『Maison Rapport(メゾン・ラポール)』での活動を認めてもらい、業務外でのキッチンの使用許可も得ました。

河村パティシエ「2つの仕事を掛け持ちすることで、両方の良いところを同時に学ぶことができていると感じます。

『パティスリー ショコラトリー レシィ』では、もちろん寺﨑シェフの仕事ぶりを間近で見られること。世界観や魅せ方など、僕には無いセンスを持っている。毎日刺激的ですし、僕のお菓子にも寺崎シェフから受けたインスピレーションが随所に反映されています。

一方、自分のブランドを持つことで得られることは、お店で修行することとはまた別の良さがあります。例えば実践的なビジネススキル。働く場所(厨房)、お菓子を作るのにかかる材料費、自分の保険料など。人の活動にはお金がかかり、それらを把握し、管理して処理をしなければいけないと身をもって体感します。だから、ただ好きなものを作るのではなく、しっかりと利益化しなきゃいけないんですよね」

名前改め『Carpe diem(カルペ・ディエム)』へ。新たなブランドで新たな指針を示す

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そして『Maison Rapport(メゾン・ラポール)』が、現在の『Carpe diem(カルペ・ディエム)』に変わったのはここ最近のこと。名前を変えた理由は、ブランドの指針が決まったからだそう。

河村パティシエ「『Carpe diem(カルペ・ディエム)』は古代ローマの詩で“その日を摘め”という意味です。僕はこれを“その日を一生懸命生きて楽しむ”と解釈して、ブランド名にしました。2022年11月に行われた『ウフ。』フェスに出させてもらったタイミングで名前を変更。この時に、それまで曖昧だったブランドイメージをしっかりとかためることができたんです」

『Carpe diem(カルペ・ディエム)』では、子供から大人まで誰もが食べられる焼き菓子を作ります。“焼き面が好きなので、デコレ―ションはあまりしません”と話す河村パティシエ。スペシャリテはミルフィーユです。

若手パティシエから見る働き方の多様性。 “自分もみんなもハッピーに” 『Carpe diem(カルペ・ディエム)』河村望心の大きな夢とは

河村パティシエ「今回はバレンタイン仕様にショコラミルフィーユにしました。特徴は、生地に塩と強力粉が少し多めに入れています。すると、塩味とホロホロとした食感を楽しめます。また、焦げる直前の限界まで焼き切ることで、芳ばしい香りと食感が生まれます。

使用するチョコレートはヴィーガンチョコレートとして数々の賞を受賞してきた『Aelan Chocolate(アエラン チョコレート)』。濃厚なビターチョコレートを使用したクリームを芳ばしいフィユタージュ(パイ生地)に挟み、オーセンティックなスタイルに仕上げます。

自分を表現する難しさ。ボンボンショコラを通して感じる自分の成長度合い

若手パティシエから見る働き方の多様性。 “自分もみんなもハッピーに” 『Carpe diem(カルペ・ディエム)』河村望心の大きな夢とは

バレンタインに合わせて今年はボンボンショコラも完成させたそう。シックな色合いで統一された4種のアソート。グリーンは、青りんごと緑茶。ブラックに白いドットのボンボンショコラは、黒ゴマのガナッシュ。オレンジとほうじ茶のガナッシュで作ったオレンジ色のハート。ローズとアニスで仕上げた赤いハート。

河村パティシエ「レストランでシェフパティシエだったときに、BARで提供するボンボンショコラを作っていました。しかし、自分らしいチョコレートを0から作るのは本当に難しい。素材をチョコレートと合わせた時の香りや水分量のコントロールなど。技術的にも、感覚的にもまだまだ。頑張らないといけないですね」

チョコレートの甘さに、フレーバーの味わいがアクセントとなる4つのボンボンショコラ。華やかさを抑えた雰囲気は男女ともに、手に取りやすく、食べやすい。そんな印象をうけました。

河村望心の仕事との向き合い方。今も未来も楽しむための選択とは

若手パティシエから見る働き方の多様性。 “自分もみんなもハッピーに” 『Carpe diem(カルペ・ディエム)』河村望心の大きな夢とは

これまで、淡々と取材を受ける姿が印象的だった河村パティシエ。今後の目標を聞くと、予想外にも壮大な応えが返ってきました。

河村パティシエ「人生って一度きりなので、楽しいことでいっぱいにしたいです。僕と関わった人も楽しいと感じてもらいたい。パティシエとして働く人は、人を喜ばせたいと思ってこの道を選んでいると、僕は思います。さらに、もの作りをしているからか、それぞれに個性がある。だからこそ、まずはパティシエとして共に働く人たちが幸せを感じる環境を整えられたらいいですね。そして、彼らがお客様にその幸せを伝えられたら、大きな波紋となって広がっていくと思っています。

今後、『Carpe diem(カルペ・ディエム)』を実店舗にするか、会社を作るか。その時に一番ワクワクする選択をしていきたいです」

何よりも“幸せ”に主軸を置く河村パティシエ。現状に対する感謝も忘れません。目の前の目標は『パティスリー ショコラトリー レシィ』を盛り上げることだそう。

河村パティシエ「いま、こうして好きなことができるのは寺崎シェフ率いる『パティスリー ショコラトリー レシィ』メンバーのおかげです。だから、少しでも恩返しできたらと思っています。

僕はセンスがあるわけではありません。でも、そんな僕でも、人と助け合い、自分のできる精一杯の努力をすれば、パティシエという職業を通して楽しい人生が歩めると、次の世代に感じて欲しい。そんな1つのロールモデルとして、少しでも業界に新風が起こればうれしいです」

人生の中で大きな割合を占める働く時間。だからこそ河村パティシエにとって仕事と向き合うことは、人生を100%楽しむために欠かせない時間です。

若手パティシエから見る働き方の多様性。 “自分もみんなもハッピーに” 『Carpe diem(カルペ・ディエム)』河村望心の大きな夢とは

これまで、3名の若手パティシエ・ショコラティエを取材してきましたが、働き方はまったく異なるものでした。同じパティシエでも、そのゴールは十人十色。そして現代、働き方が変化し、多様性が認められてきていると実感。これまで以上に、若手が活躍する未来を垣間見ることができました。

『Carpe diem(カルペ・ディエム)』インスタグラム:@carpe_diem_cd2022
※商品の販売は随時インスタにて更新

About Shop
Patisserie Chocolaterie Recit
東京都世田谷区松原5-26-15 松原パレス 1F
営業時間:11~19:00
定休日:月曜日+不定休

園果わたげさん

園果わたげ

ウフ。編集スタッフ

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ufu.の新米編集者。メンズカルチャー誌でアシスタントを経験後ufu.に転身。 特技は甘いものを食べ続けること。最近は美術館内レストランの限定コラボスイーツにハマっている。