ufu(ウフ)スイーツがないと始まらない。
今話題の『浪漫須貯古齢糖(ロマンスチョコレート)』(青森)誕生秘話。連載「チョコと人と、物語と」vol.13

今話題の『浪漫須貯古齢糖(ロマンスチョコレート)』(青森)誕生秘話。連載「チョコと人と、物語と」vol.13

バレンタインも終わり、暑さも感じる時期に。チョコレートの繁忙期も終わった今“通りすがりのただのチョコ好き”として記事を担当するuemonさんの久しぶりの連載「チョコと人と、物語と」。今回は大注目のショコラティエ須藤銀雅シェフ。東京でバー専用のチョコレート工房『アトリエ Airgead (アールガット)』をスタートさせ、青森県・弘前市ではビーントゥーバーチョコレートの専門店『浪漫須貯古齢糖(ロマンスチョコレート)』を営みます。

5月3日~10日まで、松屋銀座ではポップアップストアも展開。ショコラティエが本気で作るチョコバナナなど、今大注目のショコラティエ。バー専門チョコレートを作るなど、異端児とも呼べる須藤さんのショコラティエとしての歩み、そしてブランドストーリーを取材させていただきました。

ボクサーとしての意外な過去と経歴から始まるお菓子への興味

今話題の『浪漫須貯古齢糖(ロマンスチョコレート)』(青森)誕生秘話。連載「チョコと人と、物語と」vol.13

ue_mon:初めに「Airgead(アールガッド)」と「浪漫須貯古齢糖(ロマンスチョコレート)」、それぞれオープンさせたのはいつになるのでしょうか?

須藤さん:「Airgead」は2016年1月にここ中野坂上で、「浪漫須貯古齢糖」は2018年10月に僕の地元 弘前市でオープンさせました。

ue_mon:二つのブランドのオーナーとして、並行しながら両立させるのは、ショコラティエの世界では中々珍しいと思いますが、まず須藤さんがショコラティエやパティシエの世界を志すきっかけを教えてください。

須藤さん:元々幼少期から甘いものは好きでしたけど、特別に洋菓子が!と言うわけでもなく、和菓子も食べますし、甘いもの全般が好きでした。でも一番志すきっかけになったのが高校生の頃で、部活でボクシングを始めて、当時体重が65kg程だったんですけど、フェザー級の試合に出るために、大会前は57kgまで減量しなきゃいけなくて、それが本当にきつくて。

ue_mon:ボクシングされてたんですか!?

須藤さん:いや、でも全然弱くて(笑)本当に楽しくて真面目にはやってましたけど、よくパンチもらうし、血は出るしで、ヘロヘロになりながら家に帰って・・・そんな高校生時代だったんですけど、その帰り道に町のケーキ屋さんがあって、毎回そのお店の前を通る度に、ショーケースの中のケーキが宝石の様に見えちゃって。今考えれば、減量で食事の制限もしていたので、単にお腹空いてたんだと思いますけど(笑)。それで減量が終わったら、ケーキを買って食べて、ってことをしてました。

ue_mon:ボクシングの減量って、凄くハードって言いますもんね。それで洋菓子がより魅力的に見えたんでしょうね!

須藤さん:僕の場合は1か月前くらいから食事を変えて、2週間前からは少しずつ水分を抜いていってましたが、高校生ってまだ体もできあがってないので、中々体重減らなくて、とにかくお腹が空くんですよ。結局、高校三年間凄くボクシングが好きで、頑張ったんですけど、才能が無いのが分かって引退したんですが、それからボクシングに変わって熱意を注げるものってなんだろう?って考えることがあって、そのときにケーキ屋さんのショーケースを眺めてたときのことを思い出して、あれだけ美味しいものを自分で作れたら、さぞかし楽しいんだろうなと思って、パティシエの道を志すことにしました。

ue_mon:と言うことはボクシングが無ければ、今は別の仕事をしていたかもしれませんね!それで学校はどちらに行かれたんですか?

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須藤さん:そうかもしれません!僕は大阪の辻調理師専門学校にしました。とは言っても、一年制の製菓の専門学校に通うのに全部で300万円程かかって、それをいきなり親に言っても納得してもらえないだろうなと思っていましたし、実際に反対されました。それで色々調べた結果、当時大阪の辻調理師専門学校が唯一、住居付きアルバイト進学って言う制度を取り入れてて、学校側が住居付きのアルバイト先を斡旋してくれて、アルバイトで収入を得ながら、学校に通うことができたんです。

ue_mon:そういう制度があるんですね!

須藤さん:はい!なので学費は出してもらいましたが、在学中は生活費を引いて、余ったお金を親に仕送りとして返してました。それから専門学校を卒業して、神戸のファクトリーシンって言うケーキ屋さんに就職して、6年間在籍していました。ファクトリーシンは百貨店や商業施設に出店している様な比較的大きい会社で、セントラルキッチンで作ったお菓子を各店舗に配送していたんですが、そのセントラルキッチンで約4年勤務して、後の2年間はカフェ併設の本店で働いていました。

ue_mon:セントラルキッチンとカフェだとだいぶ作業も変わるんじゃないですか?

須藤さん:大分変わりますね。セントラルキッチンだと朝から昼ぐらいに商品を仕上げて、夕方に配送担当が受け取って、翌日店頭に並ぶみたいな感じで、繁忙期以外はスケジュールにゆとりがありましたが、カフェの方は、普通のケーキ屋さんと一緒で、朝開店前に仕上げてショーケースに並べたり、場合によっては、注文が入ってからスポンジにナッペ(クリームを塗る作業)することもあるので、スピード感が違いますよね。在籍中にその両方を経験できたのは本当に良かったですね。

ue_mon:確かに!色んな経験がある方が見方も広がりますね!

須藤さん:はい!それで、ファクトリーシンにいるとき、途中2年間くらいはBarでもバイトしてました!

掛け持ちしていたBarで切り開く新しい道

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ue_mon:え!?フルタイムで働いて、Barも掛け持ちしてたんですか?

須藤さん:若いうちって体力ありますが、お金無いじゃないですか?で、お金無いから遊べないし、もっと色々やってみたいのに、セントラルキッチンは時間の管理がきっちりしてて、残業代も稼げなくて暇だったので、何かやらなきゃなと思ってて。それに元々お酒に興味があったと言うのもありますが。仕事が終わったら、Barで働いて、っていう生活を2年くらい続けていましたが、カフェのある本店に異動になったときに、さすがに続けられなくて、バーは辞めました。

ue_mon:なるほど!その経験が「Airgead」を立ち上げるきっかけになったんですか?

須藤さん:「Airgead」を立ち上げるのはまだまだ先の話ですが、この時にお酒のことを知れたのは少なからず影響があったと思います。

ue_mon:当時はどんなジャンルのお酒が好きだったんですか?

須藤さん:基本はカクテルですね!割とウイスキーとかスピリッツは後から知るようになりました。当時はサイドカーとかギムレット等のショートカクテルが好きでしたね。

ue_mon:カクテルの魅力ってなんでしょう?

須藤さん:そもそも飲み物を飲むって言う行為が好きで・・・やっぱりボクシングしてたときに、常に喉が渇いてたからなんですかね(笑)まぁ、それは冗談ですが、ジュースとかも好きなんですけど、お酒って味の濃い液体としては究極系だと思うんですけど、それを口にするときに強い幸福感があると言うか。しかも、Barの落ち着いた雰囲気の中で、バーテンダーがカクテルを作るときの所作を眺めるのも好きで。

ue_mon:学生時代に満たされなかった思いが、社会人になって噴出してるんですかね(笑)僕もバーテンダーが無駄のない美しい動きで、カクテルを作っている様子を見るのが好きですね。

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須藤さん:あとケーキ作りに通ずるところもあって、カクテルの中でもクラシックカクテルとかは基本のレシピはあるんですが、お店によってアレンジや解釈の違いで、味わいが変わってくるんですね。なので、例えばサイドカーは、普通ブランデーとホワイトキュラソー、オレンジジュースを使ったカクテルなんですが、色んなお店に行ってサイドカーを飲み比べしたりして、どんな特徴や違いがあるのか知るのが好きでした。

ue_mon:確かに!パティスリーでもモンブラン一つとっても、いろんなレシピやアレンジがありますしね。

須藤さん:はい。そんなこんなでファクトリーシンに6年在籍して、本店の仕事も楽しかったんですが、当時パティシエの世界では、最初のお店で4年くらい働いて基本を学んだら、後は2年おきにお店を変えて、色んなお店やシェフの下で技術を習得していく、みたいなところがあって。でも僕は最初のお店に6年もいちゃったので、そろそろ次のお店で学ばなきゃと考えていました。そこでたまたま恵比寿のジョエル・ロブションに友人が働いてて、お店がパティシエを募集していると言うので、紹介してもらいました。

かの有名なジョエル・ロブション、ピエール・マルコリーニを渡り歩く

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ue_mon:ロブションに!?セントラルキッチンからカフェ、そしてレストランパティシエって、また随分環境が変わりますね!

須藤さん:全然違いますね。僕はデセールチームにいたので、コース料理の進捗に合わせて、お皿を仕上げていくっていうのが、今までに無い感覚でした。まぁ、下っ端だったので、僕の担当はデセールに必要なパーツの仕込みが主でしたが(笑)それで感じたのは、レストランパティシエって、セントラルキッチンやカフェよりも更にスピード重視だなと。システマティックなチームを組んでいるし、レシピを考えるときも、お皿をスピーディーに仕上げるために、なるべく構成するパーツを減らして、提供直前の手間を減らす様に意識していたりします。

ue_mon:そんなところを意識しているんですね。

須藤さん:はい。そこで実際にレストランパティシエをやってみて、僕には合わないと言うことを痛感しました。それから半年ほどでお店を離れる決心をしたんですが、先のことを考えていなくて、アパートの家賃も払わないといけなかったのもあったので、一か月だけプロ向けのお酒を扱う信濃屋で働きました(笑)

ue_mon:ロブションから信濃屋!?中々読めない経歴ですね(笑)

須藤さん:マニアックなスピリッツやリキュールを見るのが好きだったので、当時から信濃屋には良く通っていたんですね。それで信濃屋では接客とか品出し、Barへの配達もやりました。丁度、冬の時期だったので、バイクで配達に向かっている最中とても寒くて、信号待ちで「パティシエやるために東京出てきたのに、俺は何やってるんだろ。」って考えていましたね(笑)それからパティシエの仕事を探していたら、ピエール・マルコリーニが当時、清澄白河にあった工房のスタッフを募集していて、そこへ応募して、雇ってもらうことになりました。

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ue_mon:そこでショコラティエになるきっかけができたんですか?

須藤さん:元々、ロブションで働いているときから、自分にはカフェ専属のパティシエやレストランパティシエの様にスピード重視の職場より、じっくりと働ける職場が向いていると思っていました。そこを考えたときにショコラティエって、注文が入ってから作り始めるわけではないので、お菓子作りにじっくり向き合える仕事だと思っていて、興味が湧いていました。しかも、当時はまだBean to Barって言葉も無いころで、自社でチョコレート作りをしているショコラトリーは本当に珍しくて、カカオの産地ごとの個性を打ち出した考え方とか、ウイス

キーやワインに近いな、なんてことを考えていました。

ue_mon:確かにピエール・マルコリーニは今のBean to Barが認知される随分前から自社でカカオ豆からチョコレート作りをされていましたね。

須藤さん:はい。当時、ピエール・マルコリーニは店舗拡大している真っ只中で、清澄白河にあった工房では手狭で、製造が賄えないので移転しなくてはいけなくて、それから僕が入ってすぐに南千住の新しい工房に引っ越しすることになりました。でも、結局そこではボンボンショコラを作っていたわけではなくて、チョコレートを使ったムースショコラや焼き菓子、クッキーサンドを作っていました(笑)

ue_mon:僕も良く羽田空港のお土産でピエール・マルコリーニのダックワーズとか買ってました。もしかしたら、須藤さんが作ったダックワーズ買ってたかもしれませんね!

須藤さん:ダックワーズ作ってましたよ!秋になるとトロワ・リビエール(フランス マルティニーク産ラム酒)を使ったマロンのダックワーズが出るんですよね。それは僕のお気に入りでした!

お酒に合うチョコレートを。Bar専門チョコレートを作るきっかけ

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ue_mon:でも、工房では焼き菓子を中心に作っていたんですよね?いつショコラティエになるきっかけができたんですか?

須藤さん:僕は工房ではボンボンショコラは作ってなかったんですが、やっぱりピエール・マルコリーニにいたので、そのことを聞いた知り合いのバーテンダーから、「せっかくチョコレートの会社で働いているんだったら、お酒に合うチョコレートを作ってみてよ」って言われて、当時の上司に相談して、自分で買ってきた材料で作るんだったら、工房の機材を使わせてくれるというので、仕事終わりに自作のボンボンショコラを作るようになったのがきっかけですね。でも、当時ピエール・マルコリーニは忙しかったので、夜11時に終わることもあったんですが、それからボンボンを作り始めたりして、なかなかハードな日常でしたけど充実していました。

ue_mon:じゃあ、ボンボンショコラの作り方は独学なんですか!?

須藤さん:当時工房で働いていた先輩にボンボンショコラの作り方や、道具の使い方を教えてもらったりしていたので、全くの独学ではありませんが、いわゆる有名ショコラティエの下で働いた経験は無いですね。

ピエール・マルコリーニには3年間いたんですが、その最後の1年間は自作のボンボンショコラを作りながら働いていました。作ったボンボンショコラは大阪のBarに卸していたんですが、思いのほか人気が出ちゃって、やっていくうちに発注量も増えて、会社には許可はもらっているとは言え、段々仕事と両立させるのが難しくなっていきました。それで、当時キャリア的にも中堅の位置にいて、独立したい気持ちもあったし、体力的にきついのでどちらか一つに仕事を絞らなきゃいけないと思っていたので、独立してチョコレートをやってみようと決意しました。

ue_mon:遂に独立されるんですね!

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須藤さん:はい! 当時お店を一つ構えるほどのお金も無かったし、お店を作っても上手くいく保証もないですから。でも、どうせやるからには尖ったことやりたかったので、店舗を構える一般販売をすっぱり諦めて、モノ作りに集中できるアトリエで、Bar専用チョコレート一本に絞ったビジネスにしようと思いました。それでピエール・マルコリーニを辞める前の半年間でバーッと準備を進めて、アトリエも今の中野坂上の物件がタイミング良く見つかったので、2016年1月に「Airgead」を立ち上げました。

ue_mon:どうして「Airgead」と言う名前をつけられたのでしょうか?

須藤さん:実は「Airgead」って言うのは、スコットランドで古くから話されているゲール語なんですよ。オーセンティックなBarの名前の由来とか聞いてみると、やっぱり洋酒の中でも特に人気の高いスコッチウイスキーにちなんで、ゲール語で名前をつけるお店が多くて、僕もゲール語で名前をつけようと思ったんです。

ue_mon:あぁ、確かにスコッチウイスキーの蒸留所とか、ボトルの名前ってゲール語でつけられること多いですからね。日本語で発音したときの音の並びが独特と言うか、ある種、中二病心を擽られるんですよね(笑)

須藤さん:確かに(笑)最初は「チョコレート」をゲール語で調べてみたんですが、これがまた微妙で(笑)それで、自分の本名の銀雅から漢字一文字を取って、「銀」をゲール語で調べてみたら、「Airgead(アールガッド)」と言うので、この方がしっくりくると思って決めました。

無店舗型ショコラトリーであり、一般販売なし、B to B向けの新しいビジネス

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ue_mon:なるほど!そんな由来があったのですね。ところで、今でこそSNSなどの自己発信できるツールが普及したことで、セルフでブランディングやマーケティングが容易にできようになり、無店舗型のショコラトリーはいくつか出てくるようになりましたが、2016年当時はまだまだ珍しいスタイルだったんじゃないですか?まして、一般販売なしでB to Bのみと言うのは、今でも稀有な存在だと思います。ビジネスとしてやっていける自信はあったんですか?

須藤さん:当時も無店舗型のショコラトリーはあったのかもしれませんが、僕が開業したときは、あまり他を知りませんでした。正直、ビジネスの勉強はあまりしてこなかったので、絶対的な自信があったわけではありませんが、元々開業資金を抑えていることもありますし、一人で始めたビジネスでランニングコストもそこまでかからないようにはしていたので、あとは「自分一人が食っていけるだけの稼ぎがあれば良いかな」くらいの認識でした。程よく楽観的だったから独立できたんですかね(笑)今、お金の計算とかある程度できるようになって思うのは、当時の僕の独立計画は結構無茶苦茶だったなと言うことですね(笑)

ue_mon:ときに勢いも大事と言うことですね(笑)

須藤さん:そのおかげで今があるので、後悔はありません。普通、新店舗がオープンするときって、事前告知で知ってもらったり、店前を通る人が入って来てくれたりで、ワッと盛り上がるイメージですけど、僕の場合はB to Bのビジネスですし、顧客を抱えた状態から始めたビジネスではなかったのでスロースタートで。

ue_mon:そうですね。最近のパターンで言うと、有名店から独立した場合、前職のお店のオーナーシェフが既に有名人で、お店のお客さまに新店を紹介してくれたり、そもそも店頭での接客を通してお客さまに知って頂く機会があったり、SNSで自己発信したり、チャンスはたくさんありますが、事業者向けとなると、意図的に接点を作らないと難しいですよね?

須藤さん:そうなんです。マルコリーニ時代から注文して下さっていた大阪のBarは別として、ほぼ一からお客さまを作っていくところのスタートでしたね。なので、自分が気になるBarに足を運んで、自己紹介して、サンプルのボンボンショコラを渡して・・・ってこともやってました。でも、最初の月は必要な売上金額の半分くらいしかありませんでした。そのときは最初からマイナスのスタートで本当に焦りましたね。パティシエって粉の量とか砂糖の量の計算とかはやりますけど、経理とかお金の計算はしてこないから、実は凄く重要なことなんだなって痛感して、それからちゃんと勉強する様になりました。

ue_mon:当然と言えば当然ですが、お菓子を作るスキルと、お店を経営するスキルは別と言いますしね。

日雇いで食いついだ資金。ブランドの影に隠れた汗と涙と努力

須藤さん:はい、その当時はまだまだで・・・それからブランドを立ち上げて6か月くらいで、いよいよ運転資金が底を尽きそうになって。今月の支払いが厳しいって状況だったんですけど、知り合いからは「一時的でも良いからチョコレートの一般販売やったら?」って言われたこともあったんですが、Bar専用チョコレートって、やっぱり普通では手に入らないってことが大きな魅力だし、だから注文してくださっているところもあるので、今チョコレートを買ってくださっているお取引先のためにも裏切れないなと思って、それはお断りしました。とは言え、何とかしなきゃいけないので、派遣会社に登録して、深夜の日雇いのアルバイトを何度かやって、その月は凌いでました(笑)

ue_mon:本当に苦労が絶えないですね。でも、これからお店をやる人は凄く参考になると思います!

須藤さん:お店やるときは色んな人の話を聞いた方が良いですね。それもたくさん失敗した人の(笑)でも、その時はお取引先も徐々に増えていて、売上的にも上向きになっていたので、ちょうど一か月凌げれば来月からは黒字の見込みが立つ状況で、アルバイトをやって凌いだのはその月だけですね。それ以降は順調にお取引先も増えて、ある程度安定していました。

ue_mon:Barって一度商品を気に入ったら、ずっと置いてくれそうなイメージありますけど、実際はどうなんですか?

須藤さん:まぁ、様々ですかね。「Airgead」ではチョコレートを販売するのに特別な条件とか、購入の制限みたいなものは設けてなくて、いつ止めても良いし、逆に一度止めてたお店がまた欲しくなって注文しても問題ないし、なるべくフラットなお取引ができるように心がけています。だから、定期的に購入してくださるお店もあれば、たまに注文があるくらいのお店もあります。例えば事前の契約で月の最低購入数を決めて、他に浮気しないでね!みたいなことはやりたくなかったですし、そんなことしなくても、着々とお取引先は増えていたので、純粋に自分のチョコレートが評価されて結果に繋がっているのが、自信にもなっていきました。

ue_mon:一部の仲卸業者で契約で縛りを設けたり、取引先を囲ったりとかあるって言いますものね。その点「Airgead」はBar専用と言う特別感のあるチョコレートの価値を提供しつつ、Bar側の参入のハードルを下げる様に工夫されているのですね。ところで、Barっていう定義も難しいように思いますが、一般販売はしないとしても、卸すお店の線引きはどうされていますか?

須藤さん:基本的には問い合わせを頂いた時点で、まずどの様なお店か確認する様にしていますが、必ずしもBarだけってことも無くて、例えばBarスペースを併設しているレストランから注文があったこともあります。「Airgead」のチョコレートは変わった素材の組み合わせのボンボンショコラも多いですし、ただお店に置いてるだけだとチョコレートに興味を持ってもらうのは難しくて、お客さまに対してバーテンダーやお店の方からの説明が重要だったりします。しかも、納品から2週間を賞味期限に設定しているので、最初お試しで注文してくださった後、必然的にその中でチョコレートを消費し切れるお店だけが残るようになりますね。つまるところ、うちのチョコレートを大切に扱ってくださるところは大歓迎です!

ue_mon:なるほど!確かに、お店がチョコレートを売っていく上で、お客さまとのコミュニケーションに委ねられる部分は大いにありますね。僕も初めて「Airgead」を知るきっかけになったのは、取り扱いのあるBarに偶々伺った際に、バーテンダーの方から紹介されたことでした。そんな感じで興味のありそうなお客さまに対して、積極的に声をかけられるところでないと難しいということですね。

須藤さん:そうだったんですね!仰る通りで、置いているだけだと中々売れないので、マリアージュを考えて、相性の良いカクテルの注文があったら、それとなく紹介したりするコツが必要です。

『浪漫須貯古齢糖(ロマンスチョコレート)』の誕生

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ue_mon:それから、今度2018年に浪漫須貯古齢糖をオープンされることになると思いますが、「Airgead」がある程度軌道に乗ってビジネスとして形になったところで、どの様な心境の変化があったのでしょうか?

須藤さん:「浪漫須貯古齢糖」を立ち上げたのには色んな側面があって、まず、「Airgead」のチョコレートがある程度知られる様になって、お客さまから、「お家に持って帰りたい!」と言う要望が増えて、バーテンダーからもそういうお話をたくさんフィードバックいただくことがあって、でも「Airgead」は先ほどもお話した通り、Barと言うシチュエーションに限定することで、価値を高める方法を取っているので、一般販売は全然考えて無かったけど、やっぱり僕の作るチョコレートが欲しい、と言ってくださる方の声を無碍にもできないし、「お酒を飲めなくて、普段Barに行かない家族にも食べてもらいたい」ってことも言われて、「確かにその通りだよな」って納得させられることがあったのが一つ。

そして、マルコリーニ時代からBean to Barに興味があって、日本でも徐々にBean to Barが広がりを見せていた時期だったので、自分も挑戦してみたいと思っていたことが一つ。そして最後に、僕の地元の青森県弘前市に久々に帰ったとき、僕が通っていた母校の小学校が閉校すると知って、「故郷って放っておくと、知らないうちにどんどん変わっていくんだな」って思って、そんな思いをするくらいなら、故郷で何かやりたいなと思ったことがきっかけで、「浪漫須貯古齢糖」を始めることにしました。

ue_mon:僕も「Airgead」のチョコレートをお家で食べられたら良いな、と思っていた内の一人です(笑)確かにピエール・マルコリーニはBean to Barと言う言葉ができる以前から、カカオ豆の個性を打ち出したチョコレート作りをされていましたね。今の時代パティシエやショコラティエは、お店に所属しながら、自身オリジナルのブランドを立ち上げて、催事に出店したり、ネットで販売することも珍しくなくなってきましたが、それとはまた違って、常設のブランドを二つ並行しながらやると言うのは、中々ハードだと思います。今は二拠点生活の様な感じですか?

須藤さん:はい。生活の拠点は東京ですが、1か月の内、だいたい3週間は東京で、1週間は青森にいることが多いですかね。「浪漫須貯古齢糖」には製造を任せられるスタッフがいるので、半々にしなくても上手く回っています。以前は交通費を浮かせるために夜行バスとかも使ってましたが、最近は体力的に楽な飛行機や新幹線で行き来しています。今は移動時間も仕事ができる便利な時代なので、そうした時間は事務作業をやったりしています。

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ue_mon:「Airgead」もやりながら「浪漫須貯古齢糖」のお店も立ち上げるのは大変じゃなかったですか?

須藤さん:それはもう大変でしたね。「Airgead」は週に2回発送を行っているんですが、1週間以上東京の工房を離れると、発送を2回お休みしないといけなくなるので、結構頻繁に買ってくださっているところだと、離れてしまうリスクがあって、青森にいれるのは1週間が限界なんです。その中で、物件を探したり、スタッフを募集したりするんですが、青森でショコラティエを募集しても集まりませんし、そもそもチョコレートを専門的に扱った経験がある人もいなければ、Bean to Bar自体を知ってる人もいないので、一から教えていかないといけないんです。それで知り合いから元々地元でパティシエをやっていた子を紹介されて、転職先を探していると言うので話を聞いて採用しました。

それからオープン予定の2か月前くらいに、東京に1か月間来てもらって、みっちりチョコレートの扱いや、ボンボンショコラの作り方等を学んでもらいました。それと並行して、小さなメランジャー(チョコレートを練り上げる機械)を購入して、東京の工房でBean to Barの試作をして・・・みたいな感じでとにかくやること沢山で(笑)

「浪漫須貯古齢糖」の名前の由来とは

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ue_mon:ところで、「浪漫須貯古齢糖」の名前の由来はなんでしょうか?「Airgead」とはまた違うテイストですよね。

須藤さん:はい。弘前市は元々津軽藩の城下町として栄えてきましたが、明治維新以降、文明開化の波に乗って外国人教師やキリスト教の宣教師を積極的に受け入れてきた歴史があって、和洋折衷の洋館が多数点在しています。そのイメージを名前に落とし込みたくて、大正浪漫の「浪漫」と、自分の苗字の須藤の「須」を組み合わせて「浪漫須(ロマンス)」にして、あとは明治時代に使われていたチョコレートの漢字の当て字を繋げて、「浪漫須貯古齢糖(ロマンスチョコレート)」にしています。

ue_mon:なるほど!名前を見て、文明開化のイメージにピッタリですし、とても分かりやすいコンセプトだと思いました。「浪漫須貯古齢糖」の製造はどの様にされているんですか?

須藤さん:僕が青森にいる時間が少ないので、基本的に製造はスタッフに任せていますが、特に東京で催事に出店しているときは、青森で作ったものを発送するのだと時間も送料もかかるので、東京の工房で「浪漫須貯古齢糖」のボンボンショコラを作ることもあります。Bean to Barをやるようになって良かったのは、クーベルチュールだけでなく、「浪漫須貯古齢糖」で作った自家製のチョコレートを「Airgead」でも扱えるようになって、表現の幅がグンと広がったことですね。「浪漫須貯古齢糖」で作ったチョコレートは東京の工房にも置いていて、「Airgead」だけじゃなく、浪漫須貯古齢糖の商品開発もこっちで考えたりしています。

ue_mon:二拠点を最大限に活用して、フレキシブルにお仕事されていますね。「浪漫須貯古齢糖」のスタッフのフォロー等はどうされているのでしょうか?

須藤さん:今までそこが悩みで、やはり青森にいる時間が少ない分、直接スタッフと話す機会が少なくて、コミュニケーション不足に対して、どう対処したら良いか考えていたのですが、最近、パン職人をしていた僕の姉が「浪漫須貯古齢糖」に入ってくれることになって、スタッフとの間に入って、色々なやり取りをサポートしてくれるようになったので、とても助かっています。

香気成分とチョコレート

ue_mon:製造をしながら、お店に立って感じていることを、身近に相談できる相手がいるのは重要ですね。次にモノ作りについてお聞きしたいと思いますが、須藤さんと言えば香気成分に凄く知識の深い印象ですが、パティシエやショコラティエでそこまで香気成分について詳しい方も珍しいんじゃないでしょうか?

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須藤さん:それこそガストロノミーレストランのシェフの中には、香気成分に詳しい方はいると思いますが、パティシエやショコラティエにはあまり同じ系統の方をお見かけしませんね。実際、同業の方とそこまでの話をしていないので分かりませんが。「Airgead」のボンボンショコラはお酒とのマリアージュを目的に作られていますが、マリアージュって説明するのが難しいと思うんです。自分で言ってても分からなくなることもあるし、香りを何かの食材に例えたとして、何でそう感じるのか分からないことも良くあるし。そういう曖昧過ぎるのって、モノ作りをしている立場として良くないなって思っていて、少なくとも僕が提供するチョコレートは曖昧なものでなく、一つ筋の通ったものを出したくて、そう考えたときに、香気成分を調べればどんな性質の香りなのかある程度解りますし、香気成分が共通言語になるんですね。

ue_mon:テイスティングをして何かに例えるのは主観的な部分ですが、香気成分は客観的な部分なので、共通認識を持ちやすいってことですね。でも、どうして香気成分に関心を持つようになったのですか?

須藤さん:五反田にあるシェリーミュージアムって言うBarのマスター中瀬 航也さんが、香気成分にとてもお詳しくて、それで色々と話を聞いていたんですが、例えば定番のマリアージュでも、成分を紐解けば納得する根拠があったり、特定の成分を組み合わせることで、皆が良く知っている香り作り出したり、香気成分を知ることでマリアージュにも説得力が生まれると思って、それから自分でも色々調べる様になりました。香りは人それぞれ感じ方は違いますが、食材にどんな香気成分が含まれていて、ベースとなる成分は何なのかは解っているので、言語化するのが難しい香りを明確にしてくれます。

ue_mon:聞けば聞くほど納得です!「Airgead」でチョコレートを卸す場合、Barの方にマリアージュについてアドバイスすることはありますか?

須藤さん:絶対的にお酒はバーテンダーの方が詳しいですし、ウイスキーとかカクテルとか、そのお店のスタイルもあるので、基本的にマリアージュはお任せしていますが、聞かれた場合のみ定番の組み合わせの一覧をお渡ししています。具体的な例で言うと、カレーに使われるスパイスのフェヌグリークのボンボンショコラを作っているんですが、フェヌグリークにはソトロンって言う香気成分が入っていて、メープルシロップにも含まれる成分なんです。そして、そのソトロンが含まれているお酒がオロロソシェリーなんですね。なので、単純にオロロソシェリーを合わせるのも良いですし、オロロソシェリーの樽で熟成させたウイスキーを合わせるとか、そういう提案をしています。まぁ、全てのチョコレートに対してこんな説明をしているわけではないのですが、いくつかの具体的な例を挙げて、理解しやすくなるように努めていますね。

ue_mon:なるほど!確かに説明がストンと落ちてきますね。今は「Airgead」と「浪漫須貯古齢糖」で、それぞれボンボンショコラを販売していますが、どの様な違いがあるのでしょうか?

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須藤さん:「Airgead」のチョコレートに関しては、やはりお酒を合わせることを想定しているので、色んなお酒に含まれる香気成分と共通の成分を持った素材を使う様にしています。あと、意図的にカカオの味わいを前面に出さない様にしています。やはり、お酒とマリアージュすることが目的なので、あまりカカオが前に出過ぎると、素材のフレーバーも打ち消してしまいますし、お酒の良さも分かりにくくなってしまいます。

ue_mon:意外でした!カカオの味わいを出し過ぎない様にしているんですね!でも、僕もチョコレートとお酒の両方が好きで、良く合わせたりしますが、チョコレートって難しいんですよね。Bean to Barみたいなチョコレートは、味わいが強い分お酒に勝っちゃうし、逆に度数が高いお酒はチョコレートの繊細な香りに蓋をしちゃうこともあるし。

須藤さん:先ほどAirgeadを始めるまでの話の中でも言いましたが、僕は修業時代に誰も師事することが無かったので、独学に近い形でチョコレート作りを始めたんですね。普通、有名店や有名シェフの下で働いて独立するときって、そのお店やシェフから教わったやり方を踏襲すると思うんですけど、僕の場合はそういうものが無いので、誰の影響も受けずに始められましたし、良く言えば自由にチョコレートに対して向き合うことができるのかな、と最近思うようになりました。だから、正統派のショコラティエなら、カカオの味わいをもっと出さないとって考えるのかも知れませんが、「Airgead」の場合はBarを相手に商売をしているので、まずお酒が主役であるべきだと思うし、そのためにカカオが必要無いのであれば、抑える工夫をするべきだと思っています。

ue_mon:確かに有名パティシエやショコラティエから独立した方って、それとなくスタイルが似てくると言うか、お店のスペシャリテが元いたお店のオマージュだったりしますね。そういう視点で考えたことがありませんでした。

須藤さん:「Airgead」についてはそうですが、「浪漫須貯古齢糖」はBean to Barのお店なので、勿論カカオの個性が前面に出る様に工夫していますよ(笑)普段エンローバー(ガナッシュやプラリネにチョコレートをコーティングする機械)でボンボンショコラを作っているお店だと、コーティングに使えるチョコレートって、機械のオペレーション的にダークとミルクでそれぞれ一種類だったりしますが、うちのボンボンショコラはモールドで作るタイプなので、コーティングに使うチョコレートも全て味が変えられるんですよ。

しかも、そのコーティングのチョコレートも自家製のチョコレートを使ってますから、味わいに合わせてカカオの産地を変えたり、ブレンドしたりしてます。例えば、浪漫須貯古齢糖で作っているホップを使ったボンボンショコラは、コーティングをペルー クスコ産のカカオ豆を使用したチョコレートにしています。コーティングのチョコレートって、ガナッシュよりも融点が高い関係で、一番最後に口に残るんです。なので、ホップの爽やかな香りを含んだガナッシュと繋がりが綺麗なペルー クスコ産を選んでいます。Bean to Barからボンボンショコラをやる強みはやはりチョコレートの選択肢の多さにあるので、使えるチョコレートの選択肢が多い分、素材へのアプローチも無数にあります。

ue_mon:「Airgead」のボンボンショコラはお酒のマリアージュを優先しているので、一粒で味わいを完結させると言うより、あえて凸凹を作って、お酒を合わせやすくしている感じですが、「浪漫須貯古齢糖」のボンボンショコラは、素材の風味を最大限引き出して、更に底上げするためにカカオを使っている感じですね。コンセプトがはっきり分かれて面白いです!

須藤さん:仰る通りです。あと明確に違うのは、「Airgead」はお酒に合わせるボンボンショコラなので、お酒を使ったボンボンショコラはあえて作っていません。ですが、「浪漫須貯古齢糖」ではお酒を使ったボンボンショコラを作っています。

ue_mon:あ!確かに!それは分かりやすい違いですね。

須藤さん:「浪漫須貯古齢糖」ではボンボンショコラの中でマリアージュをしていることもあるんですが、例えば青森で作られているクラフトジンのヒバジンを使ったボンボンショコラなんかは、檜葉(ひば)を使ったジンなので、日本の針葉樹感を底上げするために、タイムやローズマリーをアンフュゼ(生クリームに煮だして香りを抽出する方法)して香りを加えています。それは檜にピネンやα-ピネンって香気成分が含まれてて、それがタイムやローズマリーにも含まれているからなんです。そういうことって知らなければ、自分の感覚を頼りに何を加えるか考えなきゃいけませんが、香気成分が分かってると何を加えたら底上げできるか解るので、とても便利です。

ue_mon:それだけ複雑なボンボンショコラを作るのに、レシピ開発はどの様にされているのでしょうか?

須藤さん:「Airgead」と「浪漫須貯古齢糖」でそれぞれ違うのですが、「Airgead」で言えば、まずお酒の香気成分を調べて、その成分が含まれている素材を探して、その素材と相性の良い別の素材を調べて・・・みたいな感じで、お酒と素材の繋がりで見たりしますが、「浪漫須貯古齢糖」の場合は、まず気になる素材や扱ってみたい素材があったら、その香気成分を調べて、その成分の特性に合ったカカオの産地や別の素材を選んで・・・みたいな感じで素材が起点になっているので、「Airgead」よりも自由なんですね。これ良いなって素材があっても、「Airgead」だとお酒に合わせるっていう縛りがあるので、今まではボツになることも多くて、その点「浪漫須貯古齢糖」を立ち上げてからは、美味しくまとまれば何を使っても良いので、違った視点でボンボンショコラが作れるて嬉しいです。

ue_mon:「Airgead」ではできなかったことが「浪漫須貯古齢糖」でできる様になって、創作意欲のガス抜き的な役割も担っているのですね。

須藤さん:そういう側面もありますね。でも「Airgead」は制約がある中でレシピを考えていくので、それはそれで凄く刺激的ではあります。

ウォーターガナッシュ、水で作ったチョコレートの美味しさと研究

今話題の『浪漫須貯古齢糖(ロマンスチョコレート)』(青森)誕生秘話。連載「チョコと人と、物語と」vol.13

ue_mon:個人的に凄く気に入っている商品で、「浪漫須貯古齢糖」から販売しているテロワールカカオがあるんですが、通常チョコレートに生クリームを加えてガナッシュに仕立てるところ、チョコレートを水で溶いて乳化させたウォーターガナッシュで販売されていて、それだけでもとても画期的なんですが、更にカカオ産地別で3種類のセットで、中にはそれぞれ香りを形成するメインとなる香気成分のチャートと、その香りの特徴が分かりやすくまとめられたプロファイリングカードが入っていて、こんなに特徴の分かりやすいチョコレートって今までに無かったなと衝撃を受けました。あの商品はどのように生まれたのでしょうか?

須藤さん:そもそもBean to Barのチョコレートでウォーターガナッシュを作ったら美味しいって言うのは分かっていて、でもそれだけだとマニアック過ぎてコンセプトが伝わりづらいと思っていたんです。で、「この美味しさをどう商品化したら、ちゃんと伝わるだろうか?」って考えていたところで、弘前市の助成金付きの産学連携のプロジェクトがあるのを知って、市から地元の弘前大学を紹介して頂いたんですが、弘前大学の農学生命科学部には様々な素材の香気成分を調べる『ガスクロマトグラフィー』の検査機があると分かって、産地別のカカオ豆の香気成分を調べてみたら面白いかもって思ったんです。

ue_mon:いよいよ専門的過ぎる話が出てきて、付いていけそうにありません(笑)

須藤さん:僕も日頃香気成分について研究しているわけではないので、専門誌でガスクロマトグラフィーの検査結果を読むことはあっても、実際に自分で成分検査をやる機会は無いんですよ。しかも民間の検査機関に依頼すると結構な値段になるので・・・でも、今回は市から助成金も出て、大学とも繋いで頂いたので、このチャンスを活かさない手は無いなと思って。それでテロワールカカオに使用するチョコレート3種類を弘前大学に持ち込んで、香気成分を調べてもらって、その結果をチャートにしてまとめたら、それぞれ比較できて食べ手も理解しやすいかもと思ったんです。

ue_mon:産学連携に力を入れる弘前と言う場所だったからこそチャンスが巡ってきた言えますね。チャートにはエステル類(華やか、フルーティ)、アルデヒド類(スパイシー、甘やか)、テルペン類(ハーブ、果皮)、アルコール類(青々しさ、草っぽさ)、ピラジン類(香ばしさ、土っぽさ)の五つの香気成分の分類と共に、カカオ豆の特性が書いてあるので、実際に口に入れたときの香りの感じ方がよりクリアになると言うか、ストンと落ちる感覚があります。

須藤さん:まさしく!「この香りってなんだろう?」っていう言語化するのが難しい人の感覚に対して、科学的にアプローチしたことで明確にできたと思います。

ue_mon:あとダークチョコレートのタブレットで食べるよりも、ウォーターガナッシュの方がカカオ豆の大まかなキャラクターを取りやすいと言うか、ウイスキーで言うところのトワイスアップ(ウイスキーと同量の水を加える飲み方)みたいに、強い香りが乱立している状態から、加水することで程よく整理されて、分かりやすくなる感じですかね?そして、生クリームを加えたガナッシュと違って、乳脂が入ってないので風味がマスキングされている感じがなくて、味わいがシャープですよね。カカオ豆の個性を楽しむのに理想的だと思いました。

須藤さん:そう感じて下さったんだとしたら、狙った通りですね。嬉しいです!例えば市販のクーベルチュールだと味わいが綺麗過ぎてウォーターガナッシュにしてもただ味が薄くなるだけなんですが、Bean to Barのチョコレートは、プレーンなダークチョコレートの状態では取り切れない繊細な風味や複雑味があるので、そう言ったものにもっとフォーカスできる意味で、ウォーターガナッシュは凄く有効的だと思っています。

ue_mon:現在は3種類ですが、もっと色んな産地のチョコレートでも作ってほしいくらいです!それでは最後に「Airgead」と「浪漫須貯古齢糖」、それぞれ今後取り組んでいきたいことについてお聞かせ頂けますか?

須藤さん:「Airgead」で言えば、元々僕が好きなBar業界を盛り上げたいという思いで事業をやっているので、普段Barに行かない、行きづらいって言う人に、実際に足を運んでもらって、その魅力を知って頂きたいと思っています。なので、「Airgead」のチョコレートがBarに行くきっかけになってくれる様に、これからも「食べてみたい」と思って頂けるようなチョコレートを作っていきたいと思います。

また「浪漫須貯古齢糖」で言えば、Bean to Barやチョコレートを通して、地域貢献ができたら良いなと思っています。過疎化で変わっていく故郷を見過ごすことができなかったから「浪漫須貯古齢糖」を立ち上げたわけで、元来弘前は積極的に異国の文化を取り入れてきた歴史があり、今もその土壌は廃れていないと思っています。なのでポジティブな変化の波を弘前で起こせればと考えています。あと、個人的にはもっと香気成分について話ができる同業の方が、増えてきてくれると良いなと思っています(笑)。

そして、私たちがチョコレート作りを始めるきっかけになったカカオ生産者も、カカオ豆のクオリティを上げ、それに伴って収入も向上してきています。私たちが心がけているのは、チョコレートに関わる全ての人々が幸せになることです。それはカカオを育てる人も、チョコレートを作る私たちも、そして売って下さる人も、最終的に食べて下さる人も、その皆が喜び、幸せを分かち合える様なチョコレート作りを行って、橋渡しができればと思っています。

ue_monさん

ue_mon

通りすがりのただのチョコ好き

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Instagram ue_monにて、お酒や料理、チョコレートの情報を発信中。チョコのテイスティングの感想も上げながら、チョコレートの魅力や楽しみ方も投稿。この連載では、チョコレートの作り手、ブランドを担う人々の姿や想いを執筆してくれます。

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浪漫須貯古齢糖(ロマンスチョコレート)
青森県弘前市緑町18
営業時間:11:00~19:00
定休日:月

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アトリエ Airgead (アールガット)