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映画『グランメゾン・パリ』の舞台にも。パリの一つ星「Ōrtensia(オルタンシア)」齊藤照允が描く食の世界

フランス・パリ16区、エッフェル塔からほど近いベートーヴェン通りに店を構えるレストラン「Ōrtensia(オルタンシア)」。

2023年に「ミシュランガイド フランス」で一つ星を獲得し、さらに映画『グランメゾン・パリ』では、木村拓哉演じる尾花夏樹たちが“三つ星”を目指すレストランの舞台としても登場。映画を観た人なら、その美しいダイニングに見覚えがあるかもしれない。

そんなパリの名店が、2026年9月、日本橋三越本店で開催される「フランス展2026」に日本初登場する。腕を振るうのは、オーナーシェフを務める日本人料理人・齊藤照允シェフだ。パリで生まれた一つ星の料理をそのまま持ち込むのではない。日本の食材を使いながら、フランスで培ってきた技術と、日本人として持つ味覚。そのふたつを行き来することで生まれる料理こそ、「オルタンシア」の真骨頂。

今回、9月25日から始まった日本橋三越で開催されている「フランス展」へ国内での初のイベントであり、奇跡の出店を果たした「オルタンシア」。来日を果たした齊藤照允シェフに、今回は取材をさせていただきました。

日本からフランスへ。そしてパリに咲いた「紫陽花」

「Ōrtensia」とは、フランス語で“紫陽花”を意味する言葉。齊藤シェフは、自分の店をフランスに開くならこの名前にしようと、以前から決めていたという。

紫陽花の原種とされるガクアジサイは日本に自生し、18世紀にヨーロッパへ渡ったといわれている。その後、“東洋のバラ”として愛され、ヨーロッパ各地に根付いていった。日本から海を渡り、新たな土地に根を張る。

その花の物語を、自身の料理人人生に重ね合わせたのが「オルタンシア」という名前だった。1976年生まれの齊藤シェフは「ブノワ 東京」で経験を積み、2007年に渡仏。「ル・グラン・ヴェフール」など名店の厨房を経験し、「ブルー・ヴァレンタイン」ではシェフを務めた。

2019年には「ピルグリム」でミシュラン一つ星を獲得。そして2022年、自身のレストラン「Ōrtensia」をパリ16区にオープンする。

その場所もまた特別だ。

かつて世界的な名声を誇った三つ星レストラン「アストランス」が店を構えていた場所。その空間を受け継ぎながら、齊藤シェフは内装を一新。料理だけでなく、インテリアから皿、サイドテーブルに至るまで、自らの感性で店を作り上げたという。

料理の世界へ入る以前、インテリア関係の仕事を経験していた齊藤シェフ。そのバックグラウンドも、ひと皿だけでは完結しない「オルタンシア」という世界観につながっている。

フランス料理に“和”を足すのではない。齊藤シェフが描く、日仏の料理

オルタンシアの料理を見ていると、日本の食材や調味料が随所に顔を出す。しかし、それはいわゆる「フレンチに和食材を取り入れた」という簡単なものではない。

代表的な料理のひとつ、牛肉のタルタルには、鰹節と昆布の出汁をほのかに忍ばせ、キャビアの塩味、燻製香をまとわせたジャガイモのムースを重ねる。

あるいはフランスのクラシックな料理であるヴォライユのドディーヌには、フォアグラやラルドとともに椎茸を組み込む。フランス料理と日本料理。それぞれを別々のものとして皿の上に並べるのではなく、両方の技法や味覚を一度自分の中へ取り込み、一皿として再構築していく。

そこにあるのは「和」と「仏」という境界線よりも、齊藤シェフ自身が積み重ねてきた経験と「日本人らしさ」が根底に。今回の日本橋三越で提供される「La tentation de Paris」コースにも、その思想がはっきりと表れている。

アミューズは「マグロのタルタル、ジャガイモのムースリーヌ、オシェトラキャビア」。

前菜には「ホタテ貝柱のタタキ、柚子と塩麹のヴィネグレット」、メインにはフランス産仔牛を使った「ブランケット・ド・ヴォーの再構築」。

フランスで実際に提供されてきた人気料理をベースにしながら、日本の素材を使って今回のために仕立てられた特別なコースだ。「タタキ」といった日本らしい、伝統技法をフレンチに落とし込むのは「日本文化」へのシェフのリスペクトが現れている。

豆腐がミルフィーユに。パリの一つ星が描くデセール

パリの本店レストランで出している豆腐のミルフィーユ

そして、スイーツ好きとして注目したいのは、やはりデセール。今回のコースの最後を飾るのが「マダガスカルバニーユと豆腐のミルフィーユ、豆乳のグラスバニーユ」だ。料理人でありながらデザートもすべて構成を手掛ける齊藤シェフ。

実は、この“豆腐のミルフィーユ”はオルタンシアを象徴するデセールのひとつ。

今回のイベントで出している豆腐のミルフィーユ

ミルフィーユというフランス菓子の王道ともいえる存在に、日本人にとって極めて身近な「豆腐」を合わせる。

豆腐を奇をてらった和素材として使うのではなく、そのニュートラルな味わい、大豆の香り、滑らかなテクスチャーをデセールの一要素として成立させているところに、齊藤シェフらしさを感じる。マダガスカル産バニラの甘く華やかな香りに、大豆のやさしい風味。ミルフィーユのフィユタージュ(パイ生地)の代わりに、薄い湯葉を使い表現をしており、ベジタリアンにも対応している。

さらに豆乳を使ったバニラのグラスを添え、乳製品だけに頼らず、軽やかで繊細な余韻へと導いていく。「日本らしさ」を前面に押し出すわけでもなく、「フランス菓子らしさ」に閉じ込めるわけでもない。

その曖昧な境界にこそ、オルタンシアの料理の面白さがある。

“百合根をモンブランに”。日本で生まれたもうひとつのデセール

さらに今回の「フランス展2026」では、コースとは別にアラカルトのデセールも登場。

中でも注目したいのが、各日50点限定の「百合根とショコラブランのモンブランパフェ」。

使われているのは、日本では和食の世界でおなじみの百合根だ。ほっくりとした食感と穏やかな甘みを持つ百合根に、フランス菓子で馴染み深いショコラブランを重ね、モンブランというかたちへ。

“栗ではないモンブラン”という意外性もありながら、百合根の持つでんぷん質のホクホクとした質感を考えると、実はモンブランという構成との距離はそれほど遠くない。日本の素材を見つめ直し、フランス菓子の文脈へ置き換える。

これもまた、長くフランスで料理をしてきた齊藤シェフだからこそ見える、日本の食材の新しい表情なのかもしれない。

日本産の百合根とフランスのショコラブラン。国籍の異なるふたつの素材が、グラスの中でひとつのデセールになる。

映画の“グランメゾン”から、本物の「オルタンシア」へ

そしてもうひとつ、「オルタンシア」を語るうえで外せなくなったのが、映画『グランメゾン・パリ』だ。

劇中で、尾花夏樹たちがパリで三つ星を目指すレストラン。そのロケ地として使われたのが、実際の「Ōrtensia」だった。

映画ではスクリーン越しに見ていた空間。しかし、そこで実際に作られている料理は、齊藤シェフが2007年からフランスで積み上げてきた時間の延長線上にある。フランス料理を学びに海を渡った一人の日本人料理人が、やがてパリに自身の店を構え、一つ星を獲得する。

そして2026年、その料理が初めて日本へ帰ってくる。「凱旋」という言葉だけでは少し大げさなのかもしれないが日本橋三越本店「フランス展2026」で味わえるのは、パリの一つ星レストランの料理だけではない。フランスと日本、ふたつの国を行き来しながら育まれてきた、齊藤照允という料理人の現在地を、ぜひ体験して欲しい。

Ōrtensia「La tentation de Paris」

会場:日本橋三越本店 本館7階 催物会場「フランス展2026」
出店:PART2
会期:2026年9月25日(金)〜30日(水)
※9月25日はエムアイカード プラス会員特別招待日
「La tentation de Paris」コース:18,480円/1名
※事前予約制
※平日はアラカルトメニューもあり