
大型ショッピングモールや高層ビルが立ち並び、多くの人々で賑わう大阪・天王寺。駅から北へ少し歩いた堀越町の住宅街に、緑の壁がひときわ目を引く小さなお菓子屋さんがあるのをご存知でしょうか。
「菓子 Ringo」のドアを叩くと出迎えてくれるのは、有名ホテルなどで長年腕を磨き、60代で自身の店をオープンした長野初恵シェフ。伝統的でシンプルな素材をベースに作られるケーキや焼き菓子は、どれも心をほっと和ませてくれる優しさにあふれています。今回は、地域の人々に愛される「街のお菓子屋さん」の魅力と、長野シェフのあたたかな想いに迫ります。

大型ショッピングモールや百貨店が立ち並び、多くの人々が行き交う天王寺駅周辺。そこから北へ10分ほど歩いた堀越町に入ると、駅前の喧騒が嘘のように静かな住宅街が広がります。

通り沿いの角地に佇むのは、一軒家を改装した愛らしいお店「菓子 Ringo」です。目に飛び込んでくるのは、温かみのある鮮やかなグリーンの壁。
愛犬の散歩途中でもふらりと立ち寄れるように設置されたドッグアンカーや、ドライブスルーのように自転車に乗りながら小窓から気軽にお菓子を買える造りなど、随所に店主のさりげない優しさが散りばめられています。

このお店を営むのは、オーナーシェフの長野初恵さん。長野さんがこの地に自分の店を構えたのは、なんと60歳を超えてからのことでした。「リッツカールトン」や「ヒルトン大阪」といった名だたる高級ホテルでの勤務経験を持つ長野さんですが、「履歴書に書ききれないくらい、たくさんのお店で働いてきました」と穏やかに微笑みます。

結婚、出産、子育てと、女性のライフスタイルは年代ごとに目まぐるしく変化するもの。長野さんはその時々の生活スタイルに合わせ、柔軟に働く場所やスタイルを変えながらも、常に一貫して洋菓子を作り続けてきました。「いろんなことができる自分じゃないから」と謙虚に語る言葉の端々からは、長野さんが長年培ってきた洋菓子への深い愛がにじみ出ています。

神戸から大阪への引っ越しという転機をきっかけに、知人からの縁もあって巡り合ったこの物件。60代での独立には少し迷いもあったそうですが、「これまで以上に自分らしく柔軟に働けるかもしれない」と決断し、2024年に「菓子 Ringo」を開業しました。現在は週6日営業と多忙な日々を送っていますが、「すべて自分で決められるから何にも縛られず、とても気が楽なんです」と生き生きとした表情を見せます。

店名の「菓子 Ringo」は、誰にでも覚えてもらえる親しみやすさを第一に名付けられました。「りんごが特別好きというわけではないのですが、丸くてコロンとしていて可愛いでしょう?」と語る長野さん。
しかし、そんな店名を冠していることもあり、秋冬限定で登場するアップルパイは早くも看板メニューとして人気を集めています。「まずは10年、体を壊さずに続けていくことが目標」と語る長野さん手作りの温かな雰囲気が、今ではすっかり地域の人々の日常に溶け込んでいます。
ショーケースや棚に並ぶのは、焼き菓子を中心に、シュークリームやシフォンケーキ、プリン、チーズケーキ、ガトーショコラ、モンブランといったバラエティ豊かなお菓子の数々。ラインアップ全体の約7割を焼き菓子、3割を生菓子が占めており、誰もがワクワクしながら選べる「街のお菓子屋さん」らしい親しみやすさに満ちています。

お菓子作りのこだわりについて尋ねると、「いいものを作る、ただそれだけです」と長野さんはシンプルに答えてくれました。使われている材料も至って基本的で、小麦粉、卵、バター、砂糖をベースに、アーモンドプードルなどを少し加える程度なのだそうです。

余計なものを足さず、ごくシンプルな素材だからこそ、混ぜ方や火の入れ方といった製法を少し変えるだけで全く異なる食感や風味へと姿を変えます。数々の名店や現場を渡り歩き、多様な技術を吸収してきた長野さんだからこそなせる業であり、長年のノウハウが一つひとつのお菓子にしっかりと息づいています。

そんな定番商品の中でも、最近特に人気を集めているのがバスクチーズケーキです。ずっしりとしたコクと濃厚なチーズの味わいが堪能できるホールサイズが、なんと2,000円で購入できるという圧倒的な良心価格。その質の高さとお手頃感からSNSでも口コミが広がり、多くのスイーツ好きの注目を集めています。
定番メニューに加えて見逃せないのが、四季折々の素材を取り入れた季節限定のラインアップです。旬のフルーツを使ったタルトやパウンドケーキ、清涼感あふれるゼリーなど、訪れるたびに新しい味わいに出会えます。

8月の店頭を彩っていたのは、いちじくや洋梨を使った季節のタルトです。なかでもいちじくのタルトは、赤ワインでじっくりと煮込んだセミドライいちじくと、自家製のいちじくジャムを一緒に焼き上げたこだわりの逸品。甘みがぎゅっと凝縮された果実と、香ばしいタルト生地のハーモニーが口いっぱいに広がります。

暑い時期にぴったりなひんやりグラススイーツも魅力的です。ほろ苦いコーヒーゼリーにはまろやかなパンナコッタを合わせ、フルーティーなマンゴーにはつるりと喉ごしの良い杏仁豆腐をペアリング。それぞれの素材が見事に引き立て合い、涼やかなひとときを演出してくれます。

また、パウンドケーキのラインアップからは「ウィークエンドシトロン」が登場。しっとりとキメ細やかに焼き上げられた生地に、甘酸っぱいレモンのアイシングが優しく寄り添います。重すぎない爽やかな後味は、夏のティータイムにもぴったりです。
さまざまなライフステージを経て、60代で一歩を踏み出した長野シェフ。誰に指示されるわけでもなく、すべての工程を自分の手と決断で作り上げていく現在のスタイルは、お菓子そのものにもおおらかで温かい空気感となって表れています。
基本の素材を大切に、長年培った技術とノウハウで丁寧に仕立てられる洋菓子の数々。日常のふとした瞬間に寄り添ってくれる「菓子 Ringo」のお菓子は、一口食べるだけでホッと心を解きほぐしてくれるような優しさに満ちています。

天王寺の賑わいから少し足を伸ばして、堀越町の静かな住宅街へ。小窓から気軽にテイクアウトするも良し、愛犬とのお散歩途中に立ち寄るも良し。長野シェフのあたたかな想いが詰まったお菓子を求めて、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
About Shop
菓子 Ringo
大阪府大阪市天王寺区堀越町4-37
営業時間:11:00~19:00
定休日:水曜日
Instagram:@kashi_ringo

あかざしょうこ
ウフ。編集スタッフ
関西方面のスイーツ担当。1984年生まれ、大阪育ちのコピーライター。二児の母。焼き菓子全般が好き。特に粉糖を使ったお菓子が好きです。
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