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名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.3|「トロペジェンヌ」

名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.3|「トロペジェンヌ」

ミルフィーユ、エクレア、クレープ、カヌレ…。日本に馴染み深いスイーツの多いフランス菓子。そんな定番のフランス菓子が誕生するまでの深い歴史はもちろんのこと、まだ日本では馴染みがなく、知られざるフランス菓子を紹介する連載「パティシエ・シマ 島田徹シェフが教える 松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子」。

名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.3|「トロペジェンヌ」

フランス菓子について教えてくれるのは、フランスの有名パティスリーやホテルでの経歴も持つ「パティシエ・シマ」の島田徹シェフ。ナビゲーターとして登場するのは、女優・モデルとして活躍している松川星(あかり)さんです。

連載3回目は、日本でも徐々に人気が高まっている『トロペジェンヌ』を紹介します。

【前回の記事はこちら】
名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.2|「ピーチメルバ」

日本が誇る名パティシエがフランス菓子の歴史を深く教える

名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.3|「トロペジェンヌ」

本連載でフランス菓子について教えてくれるのは、麹町駅から約徒歩3分の「パティシエ・シマ」オーナーシェフを務める島田徹シェフ。島田徹シェフは、日本で最初のフランス菓子専門店「A.ルコント」でフランス菓子の基礎を学んだあと渡仏し、パティスリー界のピカソと呼ばれる「ピエール・エルメ」パリ本店へ。そしてフランス最上位の格付けホテルである「ル・ブリストル」を経て約5年の滞在後帰国し「パティシエ・シマ」へ。

2016年に東京都洋菓子協会の公認技術指導員に任命され、2022年フランスに本部を持つ世界最古のシェフの会「フランス料理アカデミー」に入会を認められる。高校生パティシエナンバーワン決定戦「スイーツ甲子園」では審査員をつとめるなど大活躍。洋菓子界でも若手の指導や業界全体にも関わるなど、若くして業界全体を盛り上げ、尽力する姿は日本を代表するパティシエといっても過言ではありません。

9月のお菓子。ブリオッシュ生地にカスタードをあわせた「トロペジェンヌ」

名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.3|「トロペジェンヌ」

今月のテーマは、島田シェフが催事でも販売し、人気を博したパン菓子『トロペジェンヌ』。9月にこのスイーツを選んだ理由は、ヨーロッパの避暑地に由来があるためだと話します。

島田シェフ
「トロペジェンヌは、丸いブリオッシュ生地にシロップを染み込ませ、カスタードが主体のクリームを挟んだお菓子です。南仏の高級避暑地・サントロペで命名されたお菓子とされているため、まだ暑さが残る9月のお菓子として選びました。

温暖な南仏の現地では、保存性や経時変化を考慮してカスタードクリームにバターをあわせたクレーム・ムースリーヌ*1を使うのが一般的です。生地にパールシュガー*2をかけて、仕上げには粉糖をかけます。香り付けにはオレンジの花を使ったオレンジフラワーウォーターがよく用いられます。温かくて地中海に面したエリアなので、香りはさわやかな柑橘系のものが好まれます。

名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.3|「トロペジェンヌ」

焼成した生地にシロップを染み込ませるので、“生地をしっかりと焼く”というフランス菓子の基本となる製法が特徴です。その代わりにクリームやシロップの素材については、うちの店でも変化させています。今回の『僕のトロペジェンヌ』は、クリームに軽さを出すためにバターの代わりにマスカルポーネを入れたカスタードクリームを、シロップの香り付けには僕の好みから洋梨を使っています」

*1)クレーム・ムースリーヌ:カスタードクリームに、バターまたはバタークリームをあわせたクリーム
*2)パールシュガー:粗めで焼いても溶けず、カリっとした食感が残る砂糖

誕生と歴史。映画女優の心を射止めた「サン・トロぺの菓子」

トロペジェンヌが命名されたのは南仏ですが、そのさらなるルーツはポーランドにあるそうです。一体どんな経緯で、ポーランドから南仏に?

名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.3|「トロペジェンヌ」

島田シェフ
「フランス語で『サン・トロぺの菓子』を意味するこのお菓子は、ポーランド人で菓子職人のアレキサンドル・ミカが考案したものだとされています。ミカはサントロペでパン菓子店を営んでいて、祖母の代から伝わるこのお菓子を名前が付く前から売っていました。

そして、ミカの店に訪れて命名のきっかけを作ったのが、当時まだ無名で、後に人気を博した映画女優のブリジット・バルドーです。お菓子を気に入ったバルドーが提案した『サントロペのタルト=タルト・トロペジェンヌ』と名付け、商標も登録しました。赤いマークが特徴的なミカの店『ラ・タルト・トロペジェンヌ』は今もあり、南仏を中心に多くの店舗を展開しています。

トロペジェンヌやクグロフのような酵母を使って生地をゆっくりと発酵させる発酵菓子は、ポーランドから伝わってきたものが多くあります。王家や貴族の婚姻の歴史や、移民などの影響で、ポーランドからフランスへと文化が伝わったのだと思います。

名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.3|「トロペジェンヌ」

日本ではまだ目にする機会が少ないフランス菓子。日ごろからチョコやケーキを食べるという、スイーツ好きの松川さんにその感想を伺うと……。

「ブリオッシュ生地はシロップがほどよく染みていて、やさしい甘さを感じます。甘すぎないクリームとのバランスが絶妙です。上品で、甘いものが苦手な人でも食べやすいスイーツだと感じます」

パティシエ・シマのトロペジェンヌは、伝統的な形を踏襲しながら、島田シェフが日本の好みにあわせて作った品。お店で販売している、フランス・ナンテール地方の山形パン『ブリオッシュ・ナンテ―ル』にも使われている島田シェフ自慢のとてもリッチなブリオッシュ生地からは、芳醇な発酵バターの香りと卵のコクを強く感じます。

クリームはカスタードのうまみが広がる一方で、あわせたマスカルポーネの効果で後味はすっきりさわやか。軽やかに食べ進められて、手が止まらない味わいです。

日本でも流行しそうな “高級クリームパン”

島田シェフが“高級クリームパン”とも呼ぶトロペジェンヌ。日本でこれから流行するかもしれない、その魅力と可能性を話します。

島田シェフ
「日本人はクリームパンに親しみがあるので、トロペジェンヌも人気を得やすいスイーツだと思います。一般的なパン屋さんが使う配合より卵とバターをよりふんだんに使ったパティシエのブリオッシュ生地はパンのなかでも最高峰といえるでしょう。

カスタードクリームもリッチなミルク、卵、バニラなど厳選された良質な材料で作られているのでそれはまさに“高級クリームパン”のような位置づけで愛されていくのではないでしょうか。

名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.3|「トロペジェンヌ」

『タルト・トロペジェンヌ』というとクッキー生地のような固いスイーツを連想しますが、実際は柔らかいパンのようなお菓子で、以前流行した『マリトッツオ』*3とも共通点がありますしね。

フランスで一般的なカスタードにバタークリームを加えたクリームよりも、日本だとカスタードメインで生クリームとあわせたふわっとしたクリームにすることで、一層好まれると思います。広島の八天堂のクリームパンが、まさにそんな感じですね。

現在、トロペジェンヌを作っている店はうちの店やバター専門ショップなど日本ではまだ少ないですが、クリームはカスタードベースのまま、あわせる乳製品を日本向けにアレンジしつつ、今川焼みたいにピスタチオ風味やチョコクリームにするなど、バリエーションは多くの可能性を秘めています。

ブリオッシュ生地はパティシエにとっても重要な素材であり、湿度が高い日本では発酵の調整などに技術や工夫が必要ですが、これから流行・定番化するスイーツかもしれません」

*3)マリトッツオ:丸いブリオッシュ生地のパンに切り込みを入れ、生クリームを挟んだスイーツ

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名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.3|「トロペジェンヌ」

次回のフランス菓子は、円形のパイ生地を、カラメルを塗ったミニシューとたっぷりのクリームで飾った『サントノーレ』。フランスで愛されるカリカリ食感を堪能できる、現地の味の文化もつまったスイーツの世界に迫ります。

<衣装協力>
ワンピース\¥6,490 tocco closet(@toccocloset)

教えてくれた人

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パティシエ・シマ 島田徹シェフ

日本で最初のフランス菓子専門店「A.ルコント」でフランス菓子の基礎を学ぶ。渡仏し「ピエール・エルメ」、「ホテル・ル・ブリストル」を経て5年の滞在後帰国し、東京麹町「パティシエ・シマ」オーナーシェフに就任。フランス菓子・食文化に精通し、世界最古のシェフの会・フランス料理アカデミーに若くして入会を認められ会員となる。また公益社団法人東京都洋菓子協会技術指導委員、日本ソムリエ協会認定ワインエキスパートとしても活躍

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パティシエ・シマ(PATISSIER SHIMA)
東京都千代田区麹町3-12-4 麹町KYビル1F
営業時間:平日 11:00~19:00、土曜日 11:00~17:00
定休日:日・祝
Instagram:@patissiershima

Photo/Masahiro Noguchi(野口マサヒロ) hair&make/Nakashima Aki(中島愛貴)