長時間労働や過酷な環境でライフイベントとの両立が難しく、離職する女性も多いパティシエ業界。女性パティシエがプライベートと両立しながらお菓子作りを続け、自分らしくキャリアを重ねるためには、一体どうすればいいのか?
女性パティシエの歩みに迫る連載「女性パティシエの履歴書」第2回で紹介するのは、オンラインショップからスタートし、東京・三鷹の実店舗でも人気の「ka ha na -菓 葉 絆-」を手掛ける根本理絵さん。後編では、人気ブランド「ka ha na -菓 葉 絆-」誕生の経緯や、根本さんが話す若手パティシエへのアドバイスをお届けします。
【前編の記事はこちら】
25歳で店を背負うシェフパティシエに!ミシュラン星付きレストランを経て、自身のブランド「ka ha na -菓 葉 絆-」へ 根本理絵さん(前編)【女性パティシエの履歴書vol.2】
出産と育休を経て人気フレンチレストラン「レフェルヴェソンス」を退社した根本さんは、東京・調布市のレストラン「Maruta」でメニュー開発やデザートの提供で仕事に復帰。お店を間借りして、自身初のお菓子ブランド「LieR.oyatsu」を立ち上げます。
根本さん「Marutaにはデザートメニューの開発から入りましたが、お店がランチ営業を始めることになったので、実際のデザート作りもしていました。働いた期間は3年弱ほどです。
子育てのために時間に融通を聞かせてもらったり、子どもが熱を出したときは周りが仕事を代わってくれたり、本当によくしてもらいました。自分のオンラインショップを立ち上げるために間借りもさせてもらって、当時のオーナー、理解ある上司や同僚のみんなには本当に感謝しています」
2023年のMaruta退社後、ブランドの屋号を「ka ha na -菓 葉 絆-」へ変更。レストランで培った素材選びや組み合わせの考えをもとに、手間ひまをかけて丁寧に作られる「ka ha na -菓 葉 絆-」のお菓子は、催事やイベントでも引っ張りだこの存在に。
根本さん「Marutaを辞めてすぐに物件は決まりましたが、工事に時間がかかり、オープンまでに1年のブランクが空きました。その一方で、催事への出店をはじめ、そのときにしかできないことに取り組めた期間だったとは思っています。
お菓子の価格は安くはないですが、経営面においては、自分を含め、スタッフの生活とのバランスを大事にしたいと思っています。良い材料を使い、手間をかけるところはかける。原材料高騰の打撃は今も続いていますが、お菓子の価値を伝えていき、理解してもらえたら嬉しいです」
「両立できているかと言えば、微妙なんですが……」と話す根本さん。料理人である配偶者と協力しながら、子育てとお菓子作りを続けているのだそう。
根本さん「私が早朝に家を出ることが多く、朝の準備や子どもの送りを夫がやってくれています。余裕がある日は、晩ごはんの用意もしておいてくれたり。
逆に夫が仕事で不在の夜の時間帯は、子どもをお風呂に入れたり、寝かしつけたり、といったことは私がやっています。最初からここまでスムーズにはできていませんでしたが、話し合いながら、大変な部分をそれぞれで分担するようになりました。
週末について、土曜日の日中は長女の習い事の送迎などを夫に任せて、夕方から子どもたちは私の店舗のスタッフルームで過ごしたりしています。日曜日は私も夫も仕事を休んで家族の時間を取るようにしています。今の形に落ち着くまでに4、5年かかりましたが、なんとかお互いの仕事を尊重できるようになってきましたね。
多くのパティスリーが長時間労働になってしまうのは、やりたいことが多すぎるからだと感じています。今はスタッフが足りていないので朝6時にはお店で作り始めないと間に合いませんが、それでも18時半には終わると決める。正直やりたいことの半分もできていないのですが、今の生活を大事にするためには、“自分が定めた時間の範囲で、やることを決める”のが大切だと感じています。
子どもは10年くらい経てば離れていくだろうし、そうすれば、夜のデザート営業でも他のことでも、いくらでも挑戦できることはある。フランスに行きたいという思いもずっとあり、今の生活での最適解がこの形なだけで、これから変わってくと思っています」
根本さん「今の時代は本当に人によってやり方が違うので、一概にアドバイスはできないと思っています。私は若いころにがむしゃらに頑張ってきた自負がありますが、だからといって『君たちも長時間、とにかく頑張るべきだよ』とは言えないですね。何かしらの努力は必要な一方で、長時間働いたから成功する保証もないですし、今の時間を大切にするのも大事だと思います。
ただ、“今目の前にあることを精一杯やる”のはすごく大切なことかな、と。近道のようなものを考えたり、しんどい、辛いと悩んだりするくらいなら、とりあえず今のことを一生懸命やってみる。次にやりたいことが出てきたら、それに対してできる努力をする。そして、幾度とある“チャンス”を掴むこともとても大切です。それが、未来へとつながっていく気がします。
少しずつ経験を積むことで幅が広がって、パティシエとして長く続けるための選択肢も広がります。自分のペースでお菓子を作りたくても、経験が足りないと限界が来てしまう。自分のイメージを形にすることはすごく大変で、それはやはり、いろいろな経験があるからこそできることです。
私も、大阪のパティスリーも『レフェルヴェソンス』も『Maruta』も、すべての職場を経なければ今のようなお菓子は作れませんでした。逆に言えば、もっといろんな経験をしていればさらに違うものが作れたかもしれないし、それは今からでも遅くない。今でも経験が足りていないと感じることもありますが、“これが今の自分なんだ”と割り切るようにしています。
私自身経営者としてまだまだではありますが、働いている人たちが不安にならない環境を作ることを目標にしています。今のスタッフのなかにもお菓子業界が辛くて一度業界から離れたけれど、“一緒にやろう”と私が誘って、再度パティシエとして頑張ってくれている人がいます。
労働時間や人付き合いといったことでパティシエを諦めてしまうのはすごくもったいない。もちろんチームワークやコミュニケーションは大切です。みんなが経験を積みつつ楽しく働ける職場を作っていきたいです。
あと、アドバイスかはわかりませんが、体力はつけたほうが良いです!元気だとプラス思考でいられるし。経営的にも“その子がやりたいことを全てやらせてあげる”のはなかなか難しいですが、前向きに“お店のために自分も頑張ろう!”と働いてくれる人には、こちらも何か返さないと……と思います」
取材の最後まで、明るく真摯に話を続けてくれた根本さん。スイーツ好きはもちろん三鷹の人々にも愛される「ka ha na -菓 葉 絆-」には、パティスリーやレストラン、出産や育児を経験した根本さんだからこその丁寧な素材への向き合い方と、本来なら捨てられてしまう部分まで無駄にしない誠実な姿勢で作られたお菓子が並んでいます。
About Shop
ka ha na -菓葉絆-
東京都三鷹市下連雀4丁目15-26
営業時間:11:00~18:00(なくなり次第閉店)
定休日:日~火曜(水曜不定休、その他変更の場合あり)
Instagram:@kahana_pastry_tokyo
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