
スイーツ激戦区として知られる神戸・元町。駅から山側へ少し歩いた静かな通りに、パティシエの手仕事と製菓理論を五感で楽しめるパティスリーカフェ「coq1f(コキューイチエフ)」があります。
店主を務めるのが、製菓専門学校で10年間講師を務めた小森利文さん。わずか5席のカウンターキッチンを舞台に、注文を受けてから仕上げる極上のアシェットデセールや、毎朝焼き上げる香ばしいカヌレを届けています。お菓子作りの理屈や裏話を間近で聞きながら味わうデザートを体験しました。

JRや阪神電車の元町駅から山側へ向かって、のんびりと坂を上がること約10分。神戸市中央区下山手通の静かな通り沿いに佇むのが、今回ご紹介するカフェ「coq1f(コキューイチエフ)」です。1階がカフェ、2階がヘアサロンという共同経営のユニークなスタイルで2021年にスタートしました。

印象的な店名「coq(コキュー)」の由来は、私たちが生きるうえで欠かせない「呼吸」から。日常に自然と溶け込み、なくてはならない存在でありたいという想いが込められています。さらに重ねられているのが、フランス語で“魅力的な”を意味する「coquette(コケット)」の頭文字の3文字。

訪れたお客さん自身がより魅力的になれるように、そして魅力的な空間の中でヘア施術や食事の時間を過ごしてほしいという願いが込められています。そして後ろに続く「1f」は、建物の1階を意味するもの。

カフェの厨房に立つ店主の小森利文さんは、自身が学んだ製菓専門学校を卒業後、そのまま講師として母校に着任。10年もの間、未来のパティシエたちの育成に情熱を注いできました。転機となったのは、髪を切りに通っていたサロンのオーナーからの「2号店を出すにあたって、カフェを併設したサロンを作りたい」という熱烈なオファーを受けたことから。

ヘアサロンでも本格的なコーヒーを楽しむことができます。またカットの前後にお茶を楽しんだり、カフェをきっかけにサロンの常連になったりと、ふたつの空間は心地よい相乗効果を生み出しています。

また、夜遅めの時間帯までオープンしているため、元町界隈で食事を終えたあと「おいしいデザートで一日を締めくくりたい」と足を運ぶ人々にとって、とっておきの隠れ家となっています。
オープン当初は、店頭にガトーショコラやタルトを並べ、コーヒーとともに気軽に注文してもらうカジュアルなセルフスタイルで運営していたそう。しかし、ハイレベルなパティスリーやカフェがひしめく神戸の街を研究し直す中で、小森さんは「ここでしか体験できない価値」を突き詰める必要性を強く感じ始めたのだとか。

そこで導き出したのが、確かな技術と知識を持つパティシエがいるからこそ実現できる「アシェットデセール(皿盛りデザート)」というスタイルでした。店内に入ってすぐ目に飛び込んでくるのは、わずか5席ほどのカウンターキッチン。ここは、お菓子の仕込みから最後の仕上げまでを特等席で見つめられる、ライブ感たっぷりの舞台です。

最大の魅力は、元専門学校講師という小森さんのバックボーンが存分に活かされたコミュニケーションにあります。注文したスイーツが形作られていく様子を眺めながら、「なぜこの順番で合わせるのか」「温度や水分量でどう味が変わるのか」といった製菓のロジックや裏話を、小森さんから直接聞くことができます。

食への関心が高いグルメな人々が集まる神戸では、ただ「美味しいものを食べる」だけでなく、「知る楽しさ」まで味わえる時間はかけがえのない体験。注文したスイーツを待つだけの時間は、五感を心地よく刺激されるエンターテインメントへと変わっていきます。
「coq1f」を訪れたなら、まず味わってほしい看板メニューが「ティラミス」です。一般的なティラミスは事前に作って寝かせておくことが多いスイーツですが、ここではオーダーが入ってから一から組み立てる、鮮度抜群のアシェットデセールとして仕立てられます。

店内で丁寧に抽出したほろ苦いエスプレッソをたっぷりと吸わせたビスキュイの上に、泡立てたばかりのクリームをふわりと重ねていきます。このクリームがまた秀逸で、マスカルポーネとクリームチーズをベースに、卵黄のコクを凝縮させたアングレーズソースをブレンド。さらにアルコールを飛ばして豊かな香りを引き出したブランデーとマルサラ酒を加えることで、奥行きのある大人な味わいを引き出しています。

しっかりビターなエスプレッソと上品なクリームが口の中で混ざり合い、すうっと消えていくようになめらか。「飲めるティラミス」と称されるのも納得の贅沢な口溶けです。

もうひとつ、開店時からファンを惹きつけてやまないのが、毎朝オーブンで1時間以上かけて焼き上げられる「カヌレ・ド・ボルドー」です。芳醇なラム酒と甘いバニラの香りをまとったカヌレは、極薄のクラスト(外皮)がパリッと香ばしく、内側からはじゅわっと濃厚な味わいが溢れ出します。

季節ごとの湿度に合わせて焼き加減を緻密にコントロールしているため、食感のコントラストはいつでも完璧。数量限定のため、見かけたらぜひ押さえておきたい一品です。

そのほかにも、旬の果物を使ったパフェやクレープシュゼット、エスプレッソの香りが引き立つアフォガードなど、季節ごとのデセールも充実。冬には予約限定のクリスマスケーキが登場するなど、訪れるたびに新しい季節の表情に出会えます。
教壇に立ち、多くの生徒たちへ製菓技術を伝えてきた日々から一転、店主としてカフェの現場へ。小森さんに現在のやりがいを尋ねてみると、「やっぱり人との出会いですね」と即座に答えが返ってきました。

「通ってくれる常連さんができたり、たまたまカウンターに居合わせたお客さん同士が仲良くなったり。この場所をきっかけに人の輪がどんどん広がっていくのを間近で見られるのが、何よりも嬉しいんです」。専門学校という限られた世界を飛び出し、オープンな空間でお菓子を届けるからこそ得られる喜びが、厨房に立つ日々の原動力になっています。

今後はテイクアウトの焼き菓子のラインアップをさらに充実させ、タルトやパイなど作れる種類をできる限り広げていきたいとのこと。さらに、講師時代に長年教えてきたフランスの「ベーシックな伝統菓子」の魅力を、現代の日常に馴染む形で届けていきたいのだとか。
確かな製菓理論に裏打ちされた美味しい驚きと、カウンター越しに交わされる会話。「coq1f」という名前の通り、街の日常に心地よく溶け込みながら人々を惹きつけるこの場所は、訪れる人の毎日をこれからも少し特別にしてくれそうです。
About Shop
coq1f(コキューイチエフ)
兵庫県神戸市中央区下山手通4-7-11
営業時間:
火曜/12:00~21:00
水曜・木曜・日曜/12:00~18:00
金曜・土曜/12:00~22:00
※変更になる可能性あり(最新情報はInstagramにて)
定休日:月曜日
Instagram:@coq1f

あかざしょうこ
ウフ。編集スタッフ
関西方面のスイーツ担当。1984年生まれ、大阪育ちのコピーライター。二児の母。焼き菓子全般が好き。特に粉糖を使ったお菓子が好きです。
注目記事