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酵母が起こした奇跡「宗像堂」(沖縄)宗像夫婦と、石窯とパンの話

酵母が起こした奇跡「宗像堂」(沖縄)宗像夫婦と、石窯とパンの話

酵母が起こした奇跡「宗像堂」(沖縄)宗像夫婦と、石窯とパンの話

沖縄県の宜野湾市、那覇市からも30分強程度のところにある「宗像堂」。2003年にOPENし、来年で20周年を迎える宗像堂は、天然酵母パンを求めて全国から多くの人が訪ねて来る人気のパン屋さんです。お店を運営するのは、全国的にも有名な宗像さんご夫婦。

宗像誉支夫(よしお)さんは、福島県出身。琉球大学大学院で微生物の研究を。奥さまのみかさんは、奄美大島出身。民謡ポップスグループ「ネーネーズ」のマネージャーをするために沖縄へ移住。夫婦で自宅のアパートでパン作りを始めることからスタートし、今では“天然酵母”のパン界のパイオニアとしてファンも多いおふたりに、今回はとても親切にも、お忙しい中貴重なお時間をいただき、取材をさせていただきました。

“パン”という食が、素材と人々と、暮らしと健康と一緒に発酵していく、そんな宗像ご夫婦の歩みと、これからの話をお届けしていきます。

微生物の研究から、陶芸の道へ。そして最後にたどり着いた「パン」という道

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Q.もともとは微生物の研究をした後に、陶芸の仕事をしていたと拝見しました。そこからなぜパンの世界へ入られたのでしょうか?

宗像さん「微生物の研究と、どうしてパンが結びついたのか? どうしてパンの道へ入ったのか、というとすべては“人と人とのご縁”がつながって今に至りました。

もともと微生物の研究をすべく沖縄へ渡りました。卒業後は、研究職をしていましたが体調を崩し、退所。その後は陶芸家に3年間弟子入りし、陶芸の道へ進みました。当時陶芸は僕にとって生きる喜びでもありましたが、陶芸の粉塵や釉薬などが原因で喘息になり、仕事を続けることが困難になりました。

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そんな時に思いがけず出会ったのが『パン』です。知り合いが主催のパン教室に参加し、パンを作るときだけ喘息は大丈夫だったんです。このパンを作って、食べてもらえる人がいると、“生きていける”と強く思いました。すごくシンプルな理由です。

いざ実際パンづくりを始めると、どんどんその世界へのめりこんでいってしまいましたね。以来、修業したことも誰かに教わったこともなく、すべて独学です。」

データだけではつかめない「酵母」の面白さとの出会い

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Q.お店の入り口には「宗像堂 酵母パン」と書かれている通り、酵母がキーワードだと思いますが、宗像さんの微生物の研究と何かつながりがあるのでしょうか?

宗像さん「大学院時代の学部は分子生物学の農学研究科でした。分子の遺伝的なことと、農業とその土壌とか微生物などの研究でしたが、それはパン作りにおける“酵母”とは異なります。

“酵母”というものは、菌にフォーカスしてというより実は哲学的なアプローチになっていくんです。菌って目に見えないものですが、“現象”として観察できるもの。その現象面を、どう自分が捉えて理解していくか。そういうアプローチで観察していきます。

酵母といわれる菌の中でも多種多様な性格なものが同時に存在していて、しかもその増殖ピークは全部バラバラ。その増殖ピークの“いいポイント”を僕は一番美味しく『エネルギーが高い』という風に表現しているのですが、そのいいポイントを探し続けてパンを作っています。そのため、分析ありきではなく“実感として何かがないといけない”という職人の感覚的な部分が必要になってくるんです。

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お店の外の看板に酵母と入っているのは、沖縄の方が天然酵母パンというのを酵母パンと呼ぶので、宗像という名前をもう少しやわらかくして、なじみのある“酵母パン”で『酵母パン 宗像堂』にしました。醸す母、という言葉の通りパンにとって酵母は大切です。パン自体を酵母で発酵させてパンにするというよりは、パン全部が酵母じゃないけれど、素材が酵母たちを通して新たな生物に変化したかのようなパンを考えて作っています。」

「宗像発酵研究所」が人と土地と、文化を発酵させていく

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Q. お店の近くに設立された宗像発酵研究所。実際にはどんなことが行われているのでしょうか?

宗像さん「これもご縁ときっかけがあって、現役100歳のおじいちゃんがやっていた東洋医学研究所から譲っていただいた場所なんです。どういう利用方法がいいかなと思って研究所にしたんですが、とじこもったクローズの研究ではなく、開かれた研究所にしたいと思いました。沖縄のこの地で、人と人とが食文化と一緒に発酵していくような研究所を目指しました。

パンを通して出会ったシェフとか、食にまつわる仕事をされる方がきて、滞在して交流して、一緒に料理して。そういった“経験”を蓄積してデータベースにできたら面白いなと思いました。色々な人と人とが異文化コミュニケーションできるような場として、今はコロナ禍で止まっていますが、積極的に発展させていきたいと考えています。」

現在まで5回作り替えたという、手づくりの石窯がパンを元気にする

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Q.なぜ石窯でパンを焼くことにしたのでしょうか? また焼き方も独特と伺いました。

宗像さん「人から借りたオーブンで最初はパンを焼いていました。いろいろな熱源の違いによって、パンが実際にどう変わるかというのを実際そこで経験することができました。その中で開業するにあたって、色々なオーブンを下見した時に、「マイコン」(マイクロコントローラ)といってコンピューターの制御機能で、“温度の上げ下げもコントロールを何パターンもできます”というのを見て“これは…すぐ飽きるなぁ”と思ってしまって。

そこで僕は陶芸をやっていたこともあり、薪窯で焼かれる人間国宝という方が焼くものって質感が全然違うので、そこに“何かヒントがあるはずだ”と思いました。沖縄は亜熱帯だし、木も一杯あるし、石窯にしよう!と思いつきました。

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当時は石窯の作り方を教えてくれる人もいなかったので、友人が図書館で見つけてきた『石窯のつくり方楽しみ方』という本を手引きとして、仲間の力を借りて作りました。初代の石窯は、約5カ月で崩れてしまい、石窯を作るのにあたって、どうしてもわからない・うまくいかない部分がでてきて、例えば“このジョイントどうやって接合すればいいんだろう?”とか。そこからやっぱり崩れてきてしまいました。

今の窯は実は5代目で。崩れては直し、試行錯誤ですが約10年も頑張ってくれています。」

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Q.実際に、石窯はパンへの熱の入り方は違いますか?

宗像さん「窯自体が蓄熱した熱と、パン生地の熱交換が行われる構造になっています。その時に窯自体に仕掛けがあって、沖縄の素材が多いのですが、自分たちの酵母も石窯自体に練りこんでいて。窯の酵母の周波数と、パンの酵母の周波数が共鳴するように作っているんですよ。

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今は前日の夕方17時ぐらいから22時あたりまで、朝は4時から6時くらいまでの2回火入れをしています。前は通しで焼いていましたが、窯の機能を向上させて人が寝られる時間を作りました。」

ひとつひとつのパンにある、出会いが生んだ美味しさのストーリー

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Q.「宗像堂」のパンのラインナップは、どのように考えていらっしゃるのでしょうか?

宗像さん「なるべく、人との出会いとか旅とか、“何かと出会ったときの感動”をベースにパンを作ろうと思っていて。最近は新しいスタッフと作ったものもあるし、そのスタッフが面白いと新しいパンが生まれたりもします。人や食材との出会いで得られるインスピレーションをエネルギーにして、パンを作ることを大事にしています。

例えば『サブリナ』という二番人気のパンがあります。ローズマリーのかかった甘いパンです。普通はローズマリーは塩気のあるパンですよね。これはイタリアに旅行へ行ったときに、本当に美味しくないローズマリーの甘いパンを食べたんです。記憶から消えないぐらい(笑)。そのパン屋さんの名前が『サブリナ』という名前で、愛妻家の店だったので奥さまの名前で“サブリナ”って、ネーミングセンスがいいなぁと思ったんです。その旅行から3年ぐらいたって、『あれ、こうこう、こうしたら甘いローズマリーのパンって美味しくなるんじゃない?』と思って試行錯誤し、作ったパンがあれなんです。」

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Q.使っている素材や材料も、沖縄のものにこだわっていらっしゃいますか?

宗像さん「やはり素材にもすごくのめりこみたくて。ベーグルなどに使っている読谷小麦は、うちの畑の小麦です。『よみたん』と読みます。これが草取りが超絶に大変で。畑を作った最初の理由は、これも人のご縁でした。僕が学生で沖縄へ来たのが約26年も前。その時に、僕が畑にうかがってお世話になった農家さんが、この『宗像堂』を開いたときに、何十年ぶりかに会いに来てくださったんです。すごく嬉しくて。それで農家さんが一生懸命作っているお芋が売れないから使わん?と言われて、その芋を使ってパンを焼いていました。

その後、その農家さんから『畑、使わんか?』と言ってくださり、それで始まりました。当真嗣平さん(とうまつぐひら)という方なんですが、その当真さんの人柄が好きで、畑仕事は大変だけれど僕自身思い入れがあるので、できると思って始めました。」

デザイン性あふれるお店のコンセプトは「宗像堂を展示する」

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Q.デザイナーさんをはじめ様々な方がお店にたずさわっているのを拝読しました。このお店の空間、設計に込めたテーマ感を教えてください。

宗像さん「最初のお店は、テラコッタも自分ではりました。それで、10年前ぐらいかな? 改装しようと思ったときに古い友人から“ある人”を紹介してくれました。ひと目見たときに“この人面白そうだな”と思っていたんです。何をしている人かは全然知らなくて、実際に彼が今のお店を改装してくれました。様々な分野でアート活動やプロデュースを手がける豊嶋秀樹さんです。

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彼は施工したり、デザインするまでに10回ぐらいきて、僕たちをインタビューしてイメージをかためてくれました。アジアとかヨーロッパとか、世界中のギャラリーで展示するぐらいの人気クリエイターだったんです。そんな彼が作ったお店は『宗像堂を展示する』がテーマ。宗像堂が作っているところが感じられる、見学できる窯とか、売り場もそうです。また入ってすぐの壁は、昔使っていた作業台が壁に埋め込まれています。彼は『ブリコラージュ』(Bricolage)を手法とするアーティストで、意味合いは『寄せ集めて自分で作る』です。」

日々食べるパンと、生活のつながりを大切に

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Q.今の宗像さんにとってパンとはどのようなものでしょうか?

宗像さん「まだ構想中ですが、より僕たちの取り組みを身近に感じてもらえるような研修施設を作ろうかなと思っています。畑とかもそうです。より僕たちがパンにエネルギーこめられるように。皆さんが食べているパンと、その生活がよりつながるような体験の場や機会を提供できたらと思っています。

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パンとは、有難いものです。自ら求めていなかったものではなかったのに、自分の人生をここまで深めてくれるとは思いませんでした。パンはどこまでも広げられちゃうんですけれど、自分らしくあり続けるために哲学が必要なもの。扱う人の努力が大事になりますし、それは他の仕事でも一緒だと思います。

今って難しい世の中ですからね。“生きる楽しさ”というものを、パンに込めていきたい。“自分の体に入れるもの”=“食”と生活のつながりってすごく重要だと思っています。そこを充実させて皆さんの生活を豊かに、幸せにできるようなパンを作り続けられたらと思っています。

About Shop
宗像堂
沖縄県宜野湾市嘉数1丁目20−2
営業時間:10:00~17:00
定休日:水曜日

クリーム太郎

クリーム太朗

ウフ。編集長

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編集責任者。ショートケーキ研究家として、日本全国のケーキを食べ比べる。自身でも、ケーキやチョコレートの製造・販売を目指すべく、知識だけではなく実技も鍛錬中

Photo&Writing/Cream Taro