ミルフィーユ、エクレア、クレープ、カヌレ…。日本に馴染み深いスイーツの多いフランス菓子。そんな定番のフランス菓子が誕生するまでの深い歴史はもちろんのこと、まだ日本では馴染みがなく、知られざるフランス菓子を紹介する連載「パティシエ・シマ 島田徹シェフが教える 松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子」。
フランス菓子について教えてくれるのは、フランスの有名パティスリーやホテルでの経歴も持つ「パティシエ・シマ」の島田徹シェフ。ナビゲーターとして登場するのは、女優・モデルとして活躍している松川星(あかり)さんです。
連載最終回のテーマは、貴婦人の帽子を模したお菓子「シャルロット」。美しいスイーツに秘められた、フランスへ渡った最初期の日本人パティシエたちの物語とは?島田シェフと松川さんとともに、その歴史と魅力を紐解きます。
【前回の記事はこちら】
名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.11|「ミュゲ」
本連載でフランス菓子について教えてくれるのは、麹町駅から約徒歩3分の「パティシエ・シマ」オーナーシェフを務める島田徹シェフ。島田徹シェフは、日本で最初のフランス菓子専門店「A.ルコント」でフランス菓子の基礎を学んだあと渡仏し、パティスリー界のピカソと呼ばれる「ピエール・エルメ」パリ本店へ。そしてフランス最上位の格付けホテルである「ル・ブリストル」を経て約5年の滞在後帰国し「パティシエ・シマ」へ。
2016年に東京都洋菓子協会の公認技術指導員に任命され、2022年フランスに本部を持つ世界最古のシェフの会「フランス料理アカデミー」に入会を認められる。高校生パティシエナンバーワン決定戦「スイーツ甲子園」では審査員をつとめるなど大活躍。洋菓子界でも若手の指導や業界全体にも関わるなど、若くして業界全体を盛り上げ、尽力する姿は日本を代表するパティシエといっても過言ではありません。
6月のテーマである『シャルロット』は、「パティシエ・シマ」でも高い人気を得ているフランス菓子。なかでも洋梨をふんだんに使った「シャルロット ポワール」は、島田シェフの思い入れがあるスイーツです。
島田シェフ
「シャルロットは、ババロアやムース、クリームなどの側面にビスキュイ・ア・ラ・キュイエール※1を貼り付けたお菓子です。『シャルロット ポワール』が最も有名で、そのほかにもさまざまな味のバリエーションがあります。
ビスキュイ・ア・ラ・キュイエールは表面がカリッとしていますが、内側は柔らかく、シロップが打たれていることもあります。子どものときに初めて口にして、シロップに浸されたふわふわの生地と、洋梨のババロアのコンビネーションに驚きました。
連載の最終回にシャルロットを選んだのは、僕が大好きなお菓子だから、という理由もあります。ババロアと柔らかなクリームの組み合わせにはショートケーキとは違う美味しさがあり、とても感動したことを今でも覚えています」
※1ビスキュイ・ア・ラ・キュイエール:小麦粉と砂糖、卵を使い、卵白と卵黄を別立てして作る焼き菓子。表面には粉糖がかかっており、その細長い形状から「フィンガービスケット」とも呼ばれる。
島田シェフ
「じつは“シャルロット”と呼ばれるお菓子は複数ありますが、今回取り上げているシャルロットは、ロシア皇帝のアレクサンドル一世に仕えた料理人のアントナン・カレームが考案したものだとされています。形は貴婦人の帽子をモチーフにしており、当初は『シャルロット・リュス(ロシア風シャルロット)』と呼ばれていました。
日本にシャルロットが伝わったのは、かつてパリにあった『ジャン・ミエ』という店で、自分の父をはじめとする日本人パティシエたちが働いたことがきっかけです。日本のパティシエがそもそも洋梨を知らなかった影響もあり、シャルロット ポワールは衝撃を受けるほど美味しいお菓子でした。
フランス菓子のスポンジ生地は主に2種類あり、全卵に砂糖を入れて泡立てたものが『ジェノワーズ』、卵白と卵黄を分け、それぞれ別で泡立てて作る生地が『ビスキュイ』と呼ばれます。ジェノワーズはカステラのような生地でそのまま食べるのに適しており、ビスキュイは卵白と卵黄を分けるため生地の構造が比較的ゆるく、シロップを含ませるのに適しているのが特徴です。そのため、シロップを使うお菓子の際は、ビスキュイを用いることが多いですね。
シャルロットの上の部分は、菊の文様のようなどこか日本に親しみのあるデザインになっています。フランスで修業した日本のパティシエ第一世代にとっては、すごく象徴的で想い出のあるお菓子のため、日本でも脈々と受け継がれてきたのではないでしょうか」
「パティシエ・シマ」では、苺ピューレや生クリームを使ったスペシャリテ『ムース フレーズ』のベースともなっているシャルロット。フランボワーズソースとともに味わった、松川さんの感想は?
松川さん
「ビスキュイ生地がとても柔らかくて、驚きました!ふわふわすぎて、フォークで刺すのが難しいくらい……。ソースと一緒に食べると、味わいの違いもあって楽しいです」
日本では、ショートケーキよりも知名度の低いシャルロット。島田シェフが、シャルロットがフランスで愛される理由を話します。
島田シェフ
「シャルロットはフランスでは、家庭で作られているお菓子のイメージがありますね。ビスキュイを買ってきて、ババロアを家で作れば、それで完成する。フランスにはショートケーキがないので、ビスキュイとババロアや、ビスキュイとムースの組み合わせが、日本でいうショートケーキのようなものなのだと思います。
フランスで愛される理由としては、ジェノワーズよりもビスキュイのほうが、フランス人に好まれる生地であることも大きいです。フランス菓子には、ビスキュイ シャンパーニュ(フランス・シャンパーニュ地方発祥の薄桃色の焼き菓子)やオペラなど、ビスキュイ生地を使ったお菓子が多く存在します。
このお菓子には、フランスに渡った第一世代の日本のパティシエたちが苦労してレシピを持ち帰り、日本で作って広めた歴史があります。これからパティシエになる人や日本のパティシエたちには、そのストーリーも含めて知っていてほしいです」
島田シェフ
「日本のフランス菓子には、フランスに渡った第一世代のパティシエたちが作って国内で広めてから今に至るまで、脈々と続く歴史とストーリーがあります。フランス菓子は本来フランスのものですが、日本独自の文化も生まれ、発展しています。
フランスであまり作られなくなったり、絶滅したりしたとしても、日本人がそのお菓子を愛し続けることで、フランスで復活することもある。この連載では、日本のパティスリーのこれまでの歴史を振り返るうえでも知っていてほしいお菓子を選びました」
教えてくれた人
パティシエ・シマ 島田徹シェフ
日本で最初のフランス菓子専門店「A.ルコント」でフランス菓子の基礎を学ぶ。渡仏し「ピエール・エルメ」、「ホテル・ル・ブリストル」を経て5年の滞在後帰国し、東京麹町「パティシエ・シマ」オーナーシェフに就任。フランス菓子・食文化に精通し、世界最古のシェフの会「フランス料理アカデミー」に若くして入会を認められ会員となる。また公益社団法人東京都洋菓子協会技術指導委員、日本ソムリエ協会認定ワインエキスパートとしても活躍
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パティシエ・シマ(PATISSIER SHIMA)
東京都千代田区麹町3-12-4 麹町KYビル1F
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