ufu(ウフ)スイーツがないと始まらない。
クグロフを持つ松川星さん

名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.5|「クグロフ」

ミルフィーユ、エクレア、クレープ、カヌレ…。日本に馴染み深いスイーツの多いフランス菓子。そんな定番のフランス菓子が誕生するまでの深い歴史はもちろんのこと、まだ日本では馴染みがなく、知られざるフランス菓子を紹介する連載「パティシエ・シマ 島田徹シェフが教える 松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子」。

フランス菓子について教えてくれるのは、フランスの有名パティスリーやホテルでの経歴も持つ「パティシエ・シマ」の島田徹シェフ。ナビゲーターとして登場するのは、女優・モデルとして活躍している松川星(あかり)さんです。

11月のテーマは、フランス・アルザス地方の伝統菓子『クグロフ』。かのマリー・アントワネットも愛したお菓子には、一体どんな魅力があるのでしょうか?

【前回の記事はこちら】
名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.4|「サントノーレ」

日本が誇る名パティシエがフランス菓子の歴史を深く教える

パティシエ・シマの島田徹シェフと、女優やモデルの松川星さん

本連載でフランス菓子について教えてくれるのは、麹町駅から約徒歩3分の「パティシエ・シマ」オーナーシェフを務める島田徹シェフ。島田徹シェフは、日本で最初のフランス菓子専門店「A.ルコント」でフランス菓子の基礎を学んだあと渡仏し、パティスリー界のピカソと呼ばれる「ピエール・エルメ」パリ本店へ。そしてフランス最上位の格付けホテルである「ル・ブリストル」を経て約5年の滞在後帰国し「パティシエ・シマ」へ。

2016年に東京都洋菓子協会の公認技術指導員に任命され、2022年フランスに本部を持つ世界最古のシェフの会「フランス料理アカデミー」に入会を認められる。高校生パティシエナンバーワン決定戦「スイーツ甲子園」では審査員をつとめるなど大活躍。洋菓子界でも若手の指導や業界全体にも関わるなど、若くして業界全体を盛り上げ、尽力する姿は日本を代表するパティシエといっても過言ではありません。

11月のお菓子。お菓子とパンの要素をもった「クグロフ」

大小さまざまなクグロフ

クグロフは、多くのフランス菓子に用いられるブリオッシュ生地を使った発酵菓子。島田シェフは、「お菓子とパンの中間のようなものです」と話します。

島田シェフ
「クグロフは、バターや卵をたっぷり使ったブリオッシュ生地を“クグロフ型”と呼ばれる陶器の型を使って焼き上げたお菓子です。帽子のような可愛らしいシルエットも特徴で、大小さまざまなサイズがあります。

うちの店ではシロップに浸したものも作っていますが、アルザスで売っているクグロフは焼きっぱなしのパンに近いものが多いです。ブリオッシュ生地は基本的にどんな素材とも相性がよいので、日本でも一般的なレーズンのほか、現地ではベーコンや玉ねぎ、チーズを使ったサレ(塩)系のものも作られています」

クグロフ発祥には多くの説が。いろいろな国の文化を感じるお菓子

フランスやオーストリア、ドイツなど、ヨーロッパのさまざまな国で作られているクグロフ。島田シェフは、その誕生にはさまざまな説があると話します。

クグロフの型

島田シェフ
「フランスのアルザス地方を発祥とする説では、アルザス内の街・リボーヴィレに有名な陶器職人が住んでおり、その職人が作った陶器の型でお菓子を焼いたのがクグロフのはじまりです。

また、オーストリアの首都・ウィーンを発祥とする説では、生地を発酵させず、バターケーキのような生地で作ったものがクグロフの原型とも言われ、マリー・アントワネットがオーストリアからフランスへお嫁に行くときに伝わったとされています。クグロフの語源は、アルザス語に由来している説、僧侶の帽子に由来する説などいくつかあります。

クグロフと同じく生地を発酵させるシュトーレンはドイツ由来の菓子ですが、フランスでも作られています。国同士が地続きとなっており、戦争や人々が行き来するなかでフランスの文化ともドイツの文化とも言えるお菓子が生まれるのも、島国とは違ったこの地域の特徴です」

クグロフを持って微笑む松川星さんの横顔

松川さんは、チョコレートを日常的に食べ、週末はカフェでケーキを楽しむスイーツ好き。小さなクグロフを手に取ると、『可愛い!』と思わず笑顔に。その感想は……?


松川さん
「外はサクッと、中はしっとりしていて、ひと口で2度美味しい!ぎゅっとつまった生地にシロップがたっぷり染みていて、甘さにやみつきになります。私は甘いもの好きなので、お砂糖がふんだんにかかっていたり、じゅわっとシロップの甘さが広がったり、とても嬉しかったです」

パティシエが作る繊細な生地。魅力も難しさも備えたお菓子

砂糖をまぶしたさっくり香ばしい表面の焼き加減も、バターとシロップが広がる柔らかく贅沢なブリオッシュ生地も、シンプルな見た目からどこまでも美味しさが続くクグロフ。

パンとお菓子の良さをあわせ持ったクグロフには、普通のパンとは少し違った、パティシエが作る生地だからこその魅力が存在します。

島田シェフ
「僕のクグロフは、シュトーレンのように澄ましバターとシロップにくぐらせ、しっとりとした食感を楽しむ『クグロフ アルザシアン』と、焼きっぱなしのふわっとした美味しさを楽しむ『クグロフ エアリー』の2種類を作っています。

たくさんのクグロフとクグロフ型


パン生地には主に2種類の製法があり、製パン工場で多く使われる中種法(小麦粉の一部を先に発酵させた湯種を使う製法)と、パティスリーで用いられることが多いストレート法(最初にすべての材料を混ぜ、発酵させる製法)に分かれています。

ストレート法は中種法に比べて小麦の風味を感じられる生地を作れますが、劣化しやすく、味が落ちやすいのがデメリットです。加えて、ブリオッシュ生地は卵とバターをたっぷりと使っているため、食パンをはじめとする一般的なパンよりも固くなりやすいのが特徴です。

同じストレート法の生地でもババやサヴァランはシロップをしっかりと染み込ませるのでパサツキを感じにくいですが、クグロフは焼きっぱなしのものも多く乾燥が目立ちやすくなります。そういった意味で、クグロフは難しいお菓子だとも言えますね。

伝統的な型は陶器でできていますが、シリコンや金属製のものと比べて高価だったり、割れやすさや重量の点で扱いづらかったりといった理由から、日本では陶器以外の型で作っている店も多いです。型の素材にも金属だと模様がシャープに出る、シリコンだと柔らかみのある形になるといった個性があり、うちの店でも複数の型を使っています」

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パリブレスト

次回のテーマは、フランスの自転車レースから生まれたスイーツ「パリブレスト」。パティシエ・シマではクリスマスケーキとしても多くの人を喜ばせているお菓子の世界に迫ります。

<衣装協力>
ワンピース¥6,490 tocco closet(@toccocloset)

教えてくれた人

パティシエ・シマ 島田徹シェフ

日本で最初のフランス菓子専門店「A.ルコント」でフランス菓子の基礎を学ぶ。渡仏し「ピエール・エルメ」、「ホテル・ル・ブリストル」を経て5年の滞在後帰国し、東京麹町「パティシエ・シマ」オーナーシェフに就任。フランス菓子・食文化に精通し、世界最古のシェフの会「フランス料理アカデミー」に若くして入会を認められ会員となる。また公益社団法人東京都洋菓子協会技術指導委員、日本ソムリエ協会認定ワインエキスパートとしても活躍

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パティシエ・シマ(PATISSIER SHIMA)
東京都千代田区麹町3-12-4 麹町KYビル1F
営業時間:平日 11:00~19:00、土曜日 11:00~17:00
定休日:日・祝
Instagram:@patissiershima

Photo/Masahiro Noguchi(野口マサヒロ) hair&make/Nakashima Aki(中島愛貴)