ufu(ウフ)スイーツがないと始まらない。
「止まったら死ぬ」勝俣孝一の素顔と覚悟。鈴木セイラ「金曜日、秘密のデザート」Vol.05

「止まったら死ぬ」勝俣孝一の素顔と覚悟。鈴木セイラ「金曜日、秘密のデザート」Vol.05

鈴木セイラ「金曜日、秘密のデザート」で、取材させていただいた恵比寿のカウンターデザート店「Yama」。毎月変わる、デザートコースは、現在予約が殺到し、予約枠は争奪戦に。前回の記事ではお店やコースについて、触れていきましたが今回は、今後メディアでお話をされることもかなり少なくなるであろう、勝俣孝一シェフの深い言葉の数々を取材し、余すことなく、お届けします。

中華料理人への憧れと、ホテル時代

「止まったら死ぬ」勝俣孝一の素顔と覚悟。鈴木セイラ「金曜日、秘密のデザート」Vol.05

Q.勝俣シェフが「食」の世界へ、足を踏み入れたきっかけを教えてください。

A.「料理に興味を持ったのは小さいころに、6歳ぐらいのときに母に包丁を買ってもらったのがきっかけです。手伝いするのがすごく嬉しくて、将来的に中華の料理人、地元のお店で町中華をやりたいと思いました。なぜかというと、いたんですよ、近所の町中華で腕を振るうかっこいいおじさんが。“ああいう風になりたいな”と思い、中華を学ぼうと思い専門学校を探したんですが、なかったのでお菓子に。学校を卒業後は、名古屋マリオットアソシアホテルへ入りました。

「日本一」なんて当たり前の世界。妥協なんて一切許さない中で、人を見て、観察して見抜く力が見についた

「止まったら死ぬ」勝俣孝一の素顔と覚悟。鈴木セイラ「金曜日、秘密のデザート」Vol.05

Q.学校を卒業後、厳しいホテルパティスリー時代は、今の勝俣シェフにどのような影響を与えているのでしょうか?

「23歳まではコンクールがすべてでした。世界一になることしか考えていなくて、日本一なんて、当たり前で若いころは上司に日本チャンピオンや世界チャンピオンが普通でした。

目線、そこがまず違います。モノづくりをする目線。“ここまでのものを作らなきゃいけない”という世界で、目指しているレベルが異次元でした。妥協は一切許されなかったんです。初めてショートケーキを作らせてもらったのは4年目。下積み時代は、シェフのコックコートを用意し、たばこを吸うところを確保し、お茶を出し、相手が何を求めるか、常に先を考え行動していました。

気の利かない人間になったら終わり。

どういう趣向があって、何が喜ぶのか、常に考えていてその時の経験が今のカウンタースタイルに活かされていると思います。それがわからないとこの商売は絶対にできないですね。」

既に有名な産地、生産者の名前に飛びつくのではなく、生産者との信頼関係の上で、一緒に育っていく

「止まったら死ぬ」勝俣孝一の素顔と覚悟。鈴木セイラ「金曜日、秘密のデザート」Vol.05

Q.産地、食材へのこだわりや生産者へのつながりを大切にしていると他のインタビュー記事で拝見しました。勝俣シェフが大事にされていることを教えてください。

A.「市場へ行って、しっかり目利きすることです。自ら足を運んで、常にいいものを追い求めています。

人よりも優れたものを手に入れるためには、他の人より動かなければいけない。と思っています。

また既に有名な生産地、生産者に飛びつくことに疑問があります。目利きはそこでできているのでしょうか? 本当に食べて美味しいと思って選んでいるのでしょうか? 

もう一つ大事だと思っていることは、生産者との関係性です。生産者とは仲良くなりながらも、買い付けに関してはかなりドライな関係。良くないものは良くないと正直にいいます。上から目線になってしまうけれど、生産者を育てていくのも、大事なことだと思っています。

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うちで使っているハーブを生産している若いご夫妻がいて、配送中のトラブルやいろいろなことがあったけれど、すべて言うべきことはしっかりと伝えました。品質もイメージも一緒に共有しています。ともにそのレベルまでもっていかなければいけないと思っていて、それも他の人たちが“わおっと”思うものを作りたい一心なんです。

そして、彼らは食材として僕たちパティシエたちがきづかなかったことを教えてくれます。“実はこういう使い方ができるんですよ”と。」

「食事の域を超えて良いんだ」舞台が生む、“食”が持つ可能性の発見

「止まったら死ぬ」勝俣孝一の素顔と覚悟。鈴木セイラ「金曜日、秘密のデザート」Vol.05

Q.お花見の季節のコースでは、雲海が話題を呼びました。季節の表現方法として、「季節の食材」という枠だけではなく、あらゆるアプローチを持って表現されていると感じました。‟体験“という意味でも、大切にされている考えがあれば教えてください。

A.「僕がフランスの『Sola』という店で働いている時に、イートアートというイベントをよくやっていました。

とくに3年前のイベントですが、佐賀県伊万里市の「LIB coffee IMARI」で行われた「IMAGENJITEN」がとても印象的でした。

このイベントを主催したのはYuki Inoueさん。白磁を追及する人間国宝である井上萬二さんのお孫さんで、イベントはDJたちが皿(円盤)を回し、Yuki Inoueさんが音楽に合わせて皿(ろくろ)を回してお皿を作って、そして僕は皿に盛り付けていく。

“食事という領域を超えていいんだ”

そう強く感じたイベントでした。そういったイベントや舞台を通じて、自分のもつ可能性と、自分のもつ力を全部発揮したいと思ったのが今に至ります。コロナ禍で、お花見が許されない。だったら公式でうちの中でお花見したらどうだろう。騒ぐわけではないし、誰にも怒られず楽しめるお花見を、このカウンターとこの空間で。

ここで来る方々には、『ただ美味しいものを食べたい』ということだけじゃなくて、空間や演出も含めて楽しみに来てほしいですね。お皿の中だけではなくて、そこに日本のお茶の会の文化をデザートに落とし込みたいという考えがあって。きれいな静かさって、美味しいに結構影響する。美味しさを追求したら、お客さんにも協力してもらいたいという考えに至りました。」

「止まったら死ぬ」。今も覚悟を持って前へ進み続ける

「止まったら死ぬ」勝俣孝一の素顔と覚悟。鈴木セイラ「金曜日、秘密のデザート」Vol.05

「今は苦しみの連続、本人しかわからないですよ。“ヤマは次何やるんだろう?” “どんな驚きをくれるんだろう?”それを言葉にしてくれる人がいて、それを超えなければいけない。良い意味でのプレッシャーをビリビリと感じています。

生み出すしかない。その物と向き合うしかない。自分が尊敬している人と話したり、綺麗なモノを観たり、美味しさと美しさの交差点を探求し続けていて、美しくて美味しい、その一点を狙って鍛錬を。

先述の通り、下積み時代は常に先を読み、止まったら死ぬと思う環境でしたが、実は今もそれは変わらないですね。食の世界、ビジネス的観点含めても、止まったら死ぬと思っています。僕は世界を見ているし、今はアシェットデセールでミシュランの星を狙っています。そこを目指すべく、すごいスピードで進化と成長を進めていかないと、世界がどんどん遠ざかる。今やっているデザートコースを、月に1回変えるのは本当は無理なことなんです。でも、そこをクリアしていく、それぐらいの迫力を持って、覚悟を持ってやっています。休みなんて、ないに等しいし今は不要かもしれません。」

編集後記
今回の取材で、勝俣シェフから出てくる言葉の数々は、今までの取材とはまた別の刺激のあるものだった。言葉を、なるべく加工しすぎず、美しく美味しく活かしたい。その想いで、シェフの貴重な時間をいただいたこともあり、最高のシェフのインタビューを、最高の想いと、文章で届けしたい思いこの記事を仕上げました。

About Shop
Yama
東京都渋谷区恵比寿1丁目26−19 B1(MAP)
営業時間:12:00~、15:00~の2コースのみ。完全予約制
定休日:月、火曜日

衣装提供:Rentable Runway

Photo/Akira Ishiwatari  Writing/Cream Taro(坂井勇太朗)