
大阪の名店「ポアール」と聞いて、思い浮かべるのはどんなイメージですか?
帝塚山に本店を構える、誰もが知る高級老舗店。少し背筋が伸びるような、特別な日のパティスリー。そんなイメージを持っている人も多いかもしれません。
でも、今回お会いした二代目オーナーの辻井良樹シェフは、驚くほどチャーミングで気さくな方でした。現場で3世代続く常連さんの赤ちゃんを抱っこしたり、お客さんの声を直接聞いてはニヤリと笑う。そんな温かさが、ブランドの根っこにあるんです。
今年で56周年を迎えたポアール。56歳のシェフが語る、攻めまくりの「今」をレポート。洋菓子店とフィナンシェ専門店の2店舗を取材してきました。



まず訪れたのは、北新地にある「ポアール・ド・ジュネス」。2019年にリニューアルしたこのお店、一歩入るとゴールドのアーチやピンクの家具で大人可愛い空間が広がります。

ここで絶対に座ってほしいのが、ピンク色のオーダーメイドチェアです。これ、実は苺のケーキ「シャルロットフレーズ」をイメージして作られたもの。
「ここに座ったら、お客さんも”苺の気持ち”になれるかなと思って」
シェフ、その発想、乙女すぎませんか……!

そんな空間でいただけるのが、「ポアール・ド・ジュネス」限定メニューの「苺の気持ち」。バラの香りをまとったシャルロット型のオリジナルケーキです。外側はビスキュイではなく、口の中でしゅわっと溶ける繊細なメレンゲ。

中のふわふわスポンジは、シェフが「変えようと思っても、なかなか変えられない」と断言する完成されたレシピ。オーダーが入ってから組み立てるライブ感があるからこそ、バラの香りと素材の鮮度がダイレクトに伝わってきます。

驚くのはこれだけではありません。ドライアイスの煙をシューーーーっと出しながら運ばれてくる超エンタメ仕様の「苺のミックスジュース」!「苺のミックスジュース」は近年提供されるようになったそうですが、通常の「ミックスジュース」はなんと、昭和の時代から同じようにもくもくの演出付きで提供していたそう!

さらにコーヒーカップの縁にひっかける猫型クッキー「モンシャ〜私のふち猫〜」は、女性パティシエのアイデアをシェフが採用したものだとか。誰のアイデアでも「楽しい!」と思えば形にする、その柔軟さが今のポアールを作っています。

続いては、すぐ近くの焼きたてフィナンシェ専門店「ポアール・ル・ボン・ブール」へ。
お店に近づくだけでバターの香りに包まれますが、その香りの次元が違います。秘密は、毎朝専用の機械で、アーモンドを薄皮ごと粉砕して「ひきたて」の粉にしているから。
「ひきたての香りが一番いいに決まってるやん」と笑うシェフ。でも、これって毎日の手間を考えたら相当な「狂気」です(笑)。それでもスタッフが共に汗をかくのは、社長自らが一番のお客様主義で、誰よりもお菓子作りを愛しているからに他なりません。


一番人気はスタンダードなフィナンシェですが、フレーバーはかなり攻めています。ピスタチオは「これでもか!」というほど乗っていますし、ラム・レーズンには、お好みで追いラム酒を垂らして「ひたひた」にするスタイル。


「ラム酒好きなら、これくらい振り切らないとね!」というシェフの言葉通り、期待をいい意味で裏切ってくれる「発見」が詰まっています。
金柑のフィナンシェには仕上げに「山椒」をパラリ。
「期待をいい意味で裏切りたい、新しい発見をしてほしい」 そんなエンターテイナーとしての気持ちが凝縮されたお店でした。
創業56周年の今、シェフが大切にしているのは、親交もある作詞家・松本隆さんから授かった「普遍性」という言葉です。
「時代が変わっても色褪せない“圧倒的な美味しさ”という普遍的な価値。それを守るために、実は僕たちは毎日、変わり続けているんです」
その挑戦は、素材との向き合い方にも現れています。


素材は生き物。だからこそ、作り手側が「昨日と同じ」でいては、その素材の良さを引き出し続けることはできません。
「生地はこれでいいか? クリームの素材は?作り方は?と、常に今のベストを疑い、最上を更新するつもりで全員で考えています」
そうして、あえて「変えよう」と全力を尽くした結果、辿り着く理想の答えがあります。
「試行錯誤の果てに、『やっぱりこれが一番だ』と変えない結論に至ること。看板のスポンジ生地は、まさにその一つ。一方で、『プチシュー』は時代に合わせて砂糖を減らし、香料ではなく天然のマダガスカル直輸入のバニラを強めることで、密かに進化し続けています」

「圧倒的な美味しさ」という動かない根っこがあるからこそ、枝葉は季節や時代に合わせてしなやかに形を変えていく。その積み重ねこそが、ポアールが紡いできた56年の歴史そのものなのです。
56年という長い月日。親子3世代で通うファンもいれば、北新地の夜を彩る手土産として重宝する大人たちもいる。その誰もがポアールの箱を開ける瞬間、パッと顔を輝かせます。そういった”想い出の名脇役”であることは、ポアールが大事にしていることの一つ。
56歳になった今も、自ら現場に立ち、新しい驚きを仕掛け続ける辻井シェフ。乙女のような遊び心でピンクの椅子をオーダーし、職人の執念で毎朝アーモンドをひき、「普遍的な美味しさ」を問い直す。
その一見バラバラに見える情熱のすべては、「お客様の、最高の笑顔が見たい」というたった一つのシンプルな願いに集約されています。
伝統は大事にしながらも、重みに甘んじることなく、変化を恐れず、常に本質を追求し続けるポアール。その扉を開ければ、私たちを驚かせる「新しい感動」が待っているはずです。
About Shop
POIRE de Jeunesse(ポアール・ド・ジュネス)
大阪府大阪市北区堂島1-2-13 翁ビル1F
営業時間:11:00〜23:00(日祝は18:00まで)
定休日:なし(クリスマス・年末年始は営業時間が異なります)
POIRE le bon Beurre(ポアール・ル・ボン・ブール)
大阪府大阪市北区曾根崎新地1-2-22 北リンデンビル 1F
営業時間:11:00〜21:30(日祝は18:00まで)
定休日:なし(クリスマス・年末年始は営業時間が異なります)

あかざしょうこ
ウフ。編集スタッフ
関西方面のスイーツ担当。1984年生まれ、大阪育ちのコピーライター。二児の母。焼き菓子全般が好き。特に粉糖を使ったお菓子が好きです。
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