フランス本土から約9,421km離れた島、レユニオン島。この島から生まれたショコラブランド「Les Cabosses Ailées」(レ・カボス・エレ)は、例年フランス大使館公邸で開催されたFood expérience 「フランス美食の余韻」でひときわ注目を集めました。
美味しいものや珍しいものを見慣れているはずの、メディアやインポーターが鈴なりになる盛況ぶり。来日していたショコラティエに直接お話を伺うことができましたので、レユニオン島について、Les Cabosses Ailées(レ・カボス・エレ)について、何よりもLes Cabosses Ailées(レ・カボス・エレ)のチョコレートについてご紹介します!
フランス本土から約9,421km離れた、アフリカ大陸の東沖合に位置する、フランスの「海外地域圏」の島であり、以前はフランス王朝にちなんで「ブルボン島」と呼ばれていました。
島の中央には3000m級のピトン・デ・ネージュ山、南東部には活火山ピトン・ドゥ・ラ・フルネーズ山があり、降雨量が非常に多い熱帯性のエリアです。年間気温は17℃から31℃と寒暖差があまり大きくないのが特徴です。複雑な地形がもたらす多様な土壌・地形・気候により、バニラ・コーヒー・サトウキビ・南国フルーツ・スパイス・ゼラニウムオイルなどが特産品となっています。
2016年にリシャール・ローレ氏が創業したビーントゥバーチョコレートブランドです。ただし一般的なビーントゥバーは「カカオ豆までの加工はカカオ原産地、加工後のカカオ豆を輸入」からスタートしますが、レユニオン島はカカオが栽培可能なため、「カカオポッド(カボス)からカカオ豆に加工するところ」から手掛けるシングルオリジンチョコレートも製造する、こだわりのブランドです。
Les Cabosses Ailéesのチョコレートは主に2つのシリーズに分かれています。
氏がどのチョコレートにおいても特にこだわっているのは「どちらかが主張しすぎないバランスで作ること」だそうで、カカオの品種・焙煎具合など、なん度も細かいテストと試作を重ねてチョコレートを作り上げていきます。このため、カカオはレユニオン島産に固執しすぎず、素材としっかりとマッチするものを使うことにしているそう。
また、リシャール氏は全てのタブレットは、グルテン・ラクトース・遺伝子組み換え原料、さらにカカオバターの「追加添加なし」(ミルクチョコレート、ホワイトチョコレートを除く)で作っています。
そもそもカカオバターはカカオ豆に対し40~45%含まれているのですが、多くのチョコレートメーカーではより製造しやすい作業のためにカカオバターをさらに添加して製造しています。カカオバターは当然脂肪分が高く、香りも異なるため、リシャール氏は必要以上の添加はチョコレートや素材の風味を損なうと考え、よりクリアな香り、味わいを実現するため、ホワイトチョコレート、ミルクチョコレート以外では、自然に含まれているカカオバター以外には追加しないで製造を行っています。
試食をいただいたのですが、カカオバターを使用していない影響か、味わいの輪郭が非常にクリアに感じられたチョコレートが多いのが印象的でした。ここからは特に印象に残ったチョコレート3つに絞ってご紹介します!
レユニオン島はラム酒も特産の一つ。このラム酒に1週間カカオ豆を漬け込み、香りや味わいをしっかりと写すことでチョコレートに反映していルのが「ラム・アグリコール」です。
実はここで使われているラムは世界的にも希少なものです。
一般的にラム酒はサトウキビのジュースから、砂糖などを取り除いた「糖蜜」を用いて作られます。しかし今回使われたラム酒は、フレッシュな砂糖きびジュースから直接製造する「アグリコールラム」です。アグリコールラムはラム酒のためだけにサトウキビを栽培しているだけでなく、鮮度管理他高い技術力も求められ、実は非常に貴重なのですが、レユニオン島にはこのアグリコールラムを蒸留する蒸留所があります。
世の中に多くあるラム酒のチョコレートと異なり、アルコールは含まず、普段なら強いアルコールで感じ取りにくくなる、実際のラムとカカオの香りや風味をより細部まで味わえる逸品です。
ラムを使ったチョコレートは2種類、ラテ(ミルク入)とノアール(ミルクなし)で作られています。ラテのタイプはまろやかさもあり、食べていてどこかホッとするような味わい、ノアールはカカオの酸味なども合わさり少し力強く、また芳醇な香りが鼻腔を抜け、ビーントゥバー好きなチョコレートマニアもチョコレート菓子系のホッとする味わいが好きな方もどちらも満足すると思える味わいでした。
リシャール・ローレ氏ご自身が、このブランドの象徴的なチョコレートの一つと手に取ったのが、こちらの「ローズゼラニウムのチョコレート」。このチョコレートはレユニオン島の特産であるゼラニウムのエッセンシャルオイルを使用しています。
レユニオン島のゼラニウムは「ゼラニウム・ブルボン(以前の島の名称)」と呼ばれている品種で、バラと共通の成分ゲラニオール(geraniol)が多く含まれ、より華やかな香りがある品種なのだそう。
筆者は個人的にローズゼラニウムの香りがとても好きなのですが、今までチョコレートで使われたものに遭遇したことがなく、力強いカカオとどうマッチするのか全く想像がついていませんでした。実はオイルの具体的な配合量自体は多くはない(カカオ20gに対して10滴)そうです。
試食でいただいた際、カカオバターを追加しないことで、使用されたゼラニウムの香りとカカオの香りがクリアに伝わってくることに驚きました。酸味と力強さのバランスが良いカカオを使っており、ローズゼラニウムのはっきりとした香りの輪郭とマッチして力強さと華やかさを兼ね備えた味わいとなっていました。
72%シングルオリジン(レユニオン島産)と非常に迷ったのですが・・・ショコラティエさんのこだわるバランスの良さ、レユニオン島の素材を鑑みて、ブルボン・ポワンテュ85%(コーヒー)をお勧めします。
ブルボン・ポワンテュとは、かつてレユニオン島で栽培された「突然変異種」のコーヒー豆です。最高峰のコーヒーと言われながらも、他の生産が盛んになり、コーヒー豆の栽培自体が下火になった影響を受け1900年代一度は姿を消したと思われていました。
日本の大手コーヒー企業担当者が、レユニオン島の方々と、残存している同品種を島中を探し約60年後残存を確認。当時見つかった候補の木約4000本の中からこれぞブルボン・ポワンテュという「カフェイン含有率が低い」「豆も葉も尖っている」などの特徴を持った4本のマザーツリーまで絞り込み、2003年から試験栽培を開始、なん度も挫折を乗り越えて2007年に日本での販売をスタートするまでに回復したという印象深いコーヒー豆です。
このチョコレートは、バーの裏に細かく砕いたコーヒー豆をまぶしてあり、試食すると85%の力強く、重厚感のある苦味が広がった後に、コーヒーの香りが鼻腔を抜けていきます。ウィスキーなどと合わせてみたら面白いのではないかな、と個人的に感じたチョコレートです。
紹介したチョコレート以外にもレユニオン島産唐辛子・生姜・コブミカン他とにかく多様な味わいのチョコレートを作るLes Cabosses Ailées(レ・カボス・エレ)。素材がとにかく上質というだけでなく、リシャール・ローレ氏のこだわりにより、カカオも他の素材も喧嘩することなく両方堪能できる美味しさが特徴です。
メディアやインポーターが長くブースに止まっていたのも、ただ珍しかったのではなく、試食のチョコレートの小さなかけら一つでも「お?」っと足を止め「話をしっかり聞いてみたい」と思わせる魅力が伝わったからではないかと思いました。筆者自身、1つ目にいただいたチョコレートの解けるような口どけ、味わいや香りのクリアさに驚かされ、色々とお話を聞かせていただきました。
このブランドはまだ日本未販売ですが、興味を持っているインポーターさんは複数おられたようなので是非日本で販売いただけるように願ってやみません。
About Shop
Les Cabosses Ailées
@lescabossesailees
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