
「和菓子のデザートコース」って、ちょっと珍しいと思いませんか?
2025年7月、大阪・西天満にオープンした「菓子ogawa」は、和菓子職人・小川貴大さんが手がける、まさに新感覚のスイーツ体験ができるお店。お茶やお酒とペアリングされた5皿のデザートコースでは、“和と洋が溶け合う”瞬間を五感で楽しむことができます。
ひと口ごとに驚きがあり、香り・温度・食感のバランスが見事。静かな空間で、和菓子の奥深さとクリエイティビティが交差する時間を味わってきました!

北新地からも徒歩圏、少し足を伸ばせば着く西天満の落ち着いた街並みに、2025年7月「菓子ogawa」は誕生しました。ガラス張りのファサードに木のドア、控えめなロゴ。シンプルだけれど、どこか惹かれる…そんな外観を目にした瞬間から、心が静かにときめくのを感じました。

店内はコの字型カウンターのみ。まるで茶室のように、そっと“日常の外側”へと誘ってくれるような空間です。シェフの所作がよく見える距離感と、計算された照明と内装のバランス。特別な日でなくても、誰かに会いたくなった時、自分を整えたい時、ふらりと訪れたくなるような空気があります。

この空間を生み出したのは、オーナーシェフの小川貴大さん。もともと洋菓子志望だったという小川さんは、辻製菓専門学校で教鞭を執るなかで和菓子の奥深さに魅了されたそう。その後、鮨の名店「鮨さえ㐂」では鮨職人たちに混じり、初のデザートシェフとして挑戦。素材と季節に寄り添う和菓子の哲学に惹かれていったそうです。

「和菓子を、もっと自由に。もっと美しく。もっと感覚的に。」
そんな思いが積み重なって生まれたのが「菓子ogawa」。提供されるのは、和の素材を活かしつつ、フレンチパティスリーの美意識を融合させた五感に響くアシェットデセール。昼は5皿のコースで、夜はお酒や日本茶とのペアリングが楽しめるスイーツバーへと変わります。

料理人ではなく“菓子職人”としての感性を大切にしてきたという小川さん。だからこそ、ここで味わうスイーツは、技術や演出を超えて、どこか“人の温度”を感じさせてくれるのかもしれません。
「菓子ogawa」のデザートコースは、月ごとにまったく違う世界を見せてくれる。取材日(11月)にいただいたのは、和菓子と洋菓子がユニークに調和する“全5皿”。五感がフル稼働する、まさに体験型スイーツの連続でした…!

「いちじくのセミドライ×紹興酒クリーム」という大人な組み合わせを、メレンゲを含むことで歯切れを良くした餅で包み、さらに「銀寄栗」の餡をモンブラン風に絞る…そんな大福、初めて見ました。

見た目は可憐なのに、味は艶やか。ペアリングの特級ジャスミン茶の香りに包まれながら、最初の一口で一気に世界観に引き込まれます。

おはぎ=素朴、のイメージを覆す一皿。桜餅に使われる道明寺にチョコを混ぜた生地に、かぼちゃ×白あん×クリームチーズの餡。ブラックペッパー・ピンクペッパー・すだちで風味の違いを楽しめる遊び心が感じられます。

和でも洋でもない、だけどどこか懐かしい。柳桜園の氷出しほうじ茶がこれまた良いペアリング…香ばしさに癒やされます。

甘いだけじゃ終わらないのがogawa流。あんこにバルサミコ酢を加え、パンに塗って生ハムで巻く…と聞いたらびっくりだけど、これがまさかのクセになる味!“あまじょっぱい”の究極系です。

添えられたのは黒蜜入りの特製抹茶ラテで、思わず「瓶で売ってほしい」と思ってしまったほど。抹茶の苦味と黒蜜のまろやかさ、完璧でした。

あんことシナモンの香りがふわっと広がる壺の中に、ブリゼ生地・ロースト紅玉・キャラメルアイス、そして日本酒の泡をまとわせた“ogawa流タルトタタン”です。ペアリングはぬくもりのある煎茶。

この「洋」を担当するのは、このお店を開く際に仲間となったパティシエの安満(あま)さん。ホテルで培った技術で、まったく新しい和洋スイーツの世界で日々挑戦を続けています。

ラストは練り切り。「日本の風景をどう切り取るか」が職人のセンスだと語る小川さんが、手のひらで一瞬にして作り出す紅葉は、まさに芸術です。

餡にホワイトチョコを混ぜて口溶けを良くし、ほんのりレモンでさっぱりと。チョコ×あんこって合うの?と思ったそこのあなたに、ぜひ食べてほしい。添えられるのは、小川さんがその場で点ててくれる一保堂の抹茶。静けさの中に、日本の秋をまるごと感じる、そんな余韻で締めくくられました。
「菓子ogawa」のデザートコースは毎月5品が入れ替わり、季節の素材や行事を取り入れながら進化し続けています。さらに+3品のアラカルトデザートも登場し、節句やお月見など日本の伝統行事にちなんだ限定スイーツもラインアップ。「次はどんなお菓子を作ろうか」──その探究心が日々の原動力であり、厨房の中では常に新しい発想が生まれています。訪れるたびに違う世界観が楽しめるのは、シェフ・小川貴大さんの“試作愛”の賜物だと思います。

和菓子の哲学と洋菓子の美意識を融合させた唯一無二の一皿。その味わいと空気感には、小川さんの情熱と美学が静かに、けれど確かに息づいています。「こだわり」や「技術」を超えて、“お菓子への愛”そのものを感じられる場所──それが「菓子ogawa」でした。
About Shop
菓子ogawa
大阪府大阪市北区西天満4丁目12-22
営業時間:15:00~17:00(デザートコース)、19:00~22:00(スイーツカフェバー)
定休日:木曜日
Instagram:@kashi_ogawa

あかざしょうこ
ウフ。編集スタッフ
関西方面のスイーツ担当。1984年生まれ、大阪育ちのコピーライター。二児の母。焼き菓子全般が好き。特に粉糖を使ったお菓子が好きです。
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