
今回は大阪・淀川区の住宅街にひっそり佇む、小さな焼き菓子店「wicked bake shop(ウィキッド ベイクショップ)」を取材してきました。
手がけるのは、10年以上のパティシエ歴をもつ吉岡さん。彼女が焼くのは、スコーンやショートブレッド、ヴィクトリアケーキなど、イギリスで長く親しまれてきた素朴な焼き菓子たち。素材と製法にこだわった、飾らない“本物の味”がここにありました。

大阪・淀川区、住宅街の一角に現れる「wicked bake shop(ウィキッド ベイクショップ)」。ショーケースにはスコーンやビクトリアケーキ、キャロットケーキなど、映画の中で見たことがあるようなイギリス菓子がずらり。ひとつひとつが物語をまとっていて、どれを手に取るか思わず迷ってしまいます。

「たくさんの種類の中から、どれにしようかな?って迷う時間を楽しんでほしくて」
そう話すのは、この店をたったひとりで営むオーナー・吉岡悦子さん。
開店日は、毎週土曜日の週1日だけ。その分、平日は材料の仕入れや仕込みにじっくり時間をかけ、土曜に合わせて丁寧にお菓子を焼き上げます。週1回だけの営業は、ライフスタイルに無理なく、でも“好き”に全力を注げる働き方。20代の頃、将来に不安を感じていたという彼女がたどり着いた、ひとつの答えでもあります。

大学時代、たまたま地元の洋菓子店「ケーキテラス カレン」でアルバイトをしたのが、吉岡さんの“甘い人生”の始まり。卒業後はそのまま同店に就職し、合計で7年ほど現場で経験を積みました。けれど一方で、パティシエのハードワークに、このまま一生続けていけるのかという迷いも芽生え始めたのだとか。そんなある日、ふと手に取ったのが、イギリス菓子の本。
素材は、小麦粉・卵・砂糖・バター。たったそれだけで、心がほっとする味わいが生まれる。そこから吉岡さんの人生は、大きく舵を切ります。
ワーキングホリデーでロンドンに渡り、カップケーキショップやレストランで働きながら、現地の暮らしと菓子文化にどっぷり浸かります。偶然にも、勤務していたレストランが日本に出店することが決まり、そのまま東京へ帰国。数年間の東京生活を経て、また新たな出会いがあったそう。

それが、イギリス人の菓子職人・ステイシー・ウォード氏が主宰する英国家庭菓子教室「モーニングトン・クレセント」。
「ここで学んだことで、イギリス菓子の魅力がもっと深くなったし、自分でもできるかもしれないって、初めて思えたんです」
彼女のもとで学んだ後、2020年10月に生まれ育った大阪・淀川区で「wicked bake shop」をオープン。店名の「wicked」は、大好きなミュージカル「WICKED」にちなんだものなのだとか。“邪悪な”という意味もありますが、スラングで“最高!”“カッコいい!”っていう意味も含んでいるそうです。

週1日の営業日には、15〜20種類もの焼き菓子がショーケースにずらりと並びます。どれもこれも、見た目は派手ではないけれど、どこか温かみがあり、手が伸びてしまうものばかり。スコーン、ヴィクトリアケーキ、レモンドリズル、ショートブレッド……英国伝統のレシピを忠実に守りながらも、吉岡さんの繊細な手仕事が加わることで、素朴さの中に奥行きを感じます。

「フランス菓子のような技巧や装飾はないけれど、日常にあってほしい安心感があるんです」と語る吉岡さん。
素材の香りや焼き加減、重ね方ひとつで印象が変わるのがイギリス菓子の面白さであり、難しさ。焼き菓子好きにはたまらないこだわりです。

秋の時期は、りんごや洋梨など旬の果実を使った季節限定メニューも登場。中でも「アップルクランブルケーキ」やカップスタイルの「アップルパイ」には、イギリスでよく使われる“ブラムリーアップル”という酸味の強い品種を使用。あえて日本の甘いリンゴを避けて、現地の味に近づけるため、生産農家に直接コンタクトを取るなど、素材の段階から徹底的にこだわっています。

また、伝統菓子のバッテンバーグケーキは、吉岡さんがマジパンの香りを抑えるために自家製マジパンを使用。マジパンが苦手な人にも食べてほしいという、優しいアレンジが効いています。

そしてショートブレッドにキャラメル&ビターチョコを重ねた「ミリオネアショートブレッド」は、甘党にはたまらない一品。手で持った時のずっしり感と、口に入れた瞬間の濃厚さがたまりません…!

吉岡さんは、ただ「作る」だけではなく、お菓子の背景にある文化や物語まで届けたいと考えています。「これはお祝いの時に食べられていたケーキなんです」「紅茶と一緒に食べるのがイギリス流ですよ」といった会話も、お菓子選びの楽しさのひとつ。ティータイムがちょっぴり豊かになるような、そんな“英国のおやつ時間”を、ここで体験してみてください。
イギリス菓子の魅力は、見た目の華やかさではなく、口にしたときに感じる滋味深さ。「wicked bake shop」では、そんな優しさと温もりに満ちた焼き菓子が、丁寧な手仕事で作られています。

店主の吉岡さんが、自分のペースで、無理なく好きなことを続けていくために選んだ“週1営業”というスタイル。そのこだわりが、ひとつひとつのお菓子にしっかりと宿っています。
営業は土曜のみですが、火〜金の間はネットショップから「お取り置き」の受付も可能。気になる商品を確実に手に入れたい方は、ぜひ事前の予約をおすすめします。
About Shop
wicked bake shop
大阪府大阪市淀川区十八条3-4-22
営業時間:11:00〜18:00
定休日:日〜金曜日(土曜日のみ営業)
Instagram:@wicked_bake

あかざしょうこ
ウフ。編集スタッフ
関西方面のスイーツ担当。1984年生まれ、大阪育ちのコピーライター。二児の母。焼き菓子全般が好き。特に粉糖を使ったお菓子が好きです。
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