

2025年も残すところ僅か。2025年は、多くの新しい店がオープンし、30台半ばのパティシエたちによる新店の開業ラッシュの年でもありました。またスイーツ界のトレンドでいえば、生ドーナツブームから派生し、今年はフレンチクルーラーの専門店ができるほどのブームに。
そんな師走の最後に、また新しいお店「Franse cruller-donut」が浅草橋に12月18日オープン。フレンチクルーラーと古典菓子のお店です。このお店、一味も二味も違い、他とは一線を画します。それは、なぜか? このお店を御年65歳という年齢で立ち上げた鈴木祥仁シェフにあります。

鈴木祥仁シェフはパティシエであり、製菓業界のコンサルタントとしても活躍しています。 キャリアのスタートは尾山台にある名店「オーボン・ヴュータン」。22歳で菓子職人という仕事に憧れ、創設期のメンバーとしてお菓子の基礎を学ぶ。その後はアルザス ストラスブールへと渡り、フランスで修業されました。
今はもうありませんが、神楽坂のサロン「セシル エリュアール」では多くの人にお菓子の持つ歴史と伝統、そしてその魅力を届けてこられました。またこのサロンでは、シェフのデザートを食べにくるお客だけではなく、多くの生徒を抱えてお菓子教室を運営。錦糸町に移転後はアトリエに。現在第一線を走るシェフの中にも、鈴木シェフから教わったパティシエも多くいます。例えばタルトタタンを教わったミシュランガイドにて選ばれた新進気鋭のシェフも生徒ではありませんでしたが、鈴木シェフから学びました。そしてここ数年でこのお菓子教室出身者で、お店を出す方もいるなど、数多くの将来有望なパティシエたちを輩出しています。
お菓子の全てを知り尽くした鈴木シェフのお菓子は「絶品」という軽い言葉では形容できないほど。ではなぜトレンドであるフレンチクルーラーのお店を出されたのでしょうか? そして1つのフレンチクルーラーに込められた技術の数々とは?

JR・都営浅草線「浅草橋」駅から徒歩わずか1分少し。路面に面した「Franse cruller-donut」は、約3坪強とこじんまりしたお店。看板には「Franse cruller-donut et COFFEE Opéra」とあり、コーヒースタンドの側面も。実は、鈴木シェフのお菓子教室の生徒さんから“コーヒースタンドを開業したい”という話が出て、そこで鈴木シェフがフレンチクルーラーのお店を同じ空間にオープンさせる形になりました。
店名「Franse cruller-donut」=フランセ クール ドーナツは“フレンチクルーラードーナツ”をオランダ語にしたものなんだとか。

特注で作ったという、ショーケース。フレンチクルーラーは6種類並びます。シンプルなお砂糖をまぶしたタイプ3種類、中にクリームをはさみ表面にチョコレートでフォンダンさせたタイプが3種類。今後はフランスの伝統菓子であるパリ・ブレストもショーケースに並ぶ予定だという。

「セシル エリュアール」でも販売されていた古典菓子の数々も並びます。「フランスのサロンのショーケースみたいでしょ?」そう話す鈴木シェフ。
ヴィジタンティーヌやマドレーヌ、洋酒が香る「ケークアングレ」(写真)他、ファンも多い「熟成黒ケイク」がズラリと並びます。「熟成黒ケイク」は、40年前に途絶えてしまった伝統を継承したシェフのスペシャリテです。まだまだ今後も種類を増やしていきたいとシェフは話されます。
店内はイートインとして、スタンディングテーブルが2つ。淹れたてのこだわりの自家焙煎のコーヒーを店内で楽しめます。
なぜフレンチクルーラーにしたか、鈴木シェフに伺うと……。
「ほかのドーナツに比べて、生地のベースはシュー生地。そこにパティシエールを組み合わせるなど、それはパティシエとしての技術が最も活かされる。パティシエだからこそ、美味しさを追求できるのがフレンチクルーラーです。それで日本で一番美味しいフレンチクルーラーを作ろうと思い、立ち上げました。」

生地は北海道産の薄力粉と強力粉を合わせ、平飼い有精卵のたまごでサックリと軽い食感。一口食べると、フレンチクルーラーにありがちな油っこさが全くありません。その秘密は米油を使っており、フライヤーではなく熱伝導のいい銅鍋で180℃の温度帯で軽く揚げているからなんだとか。
写真右の列にあるパティシエールをサンドしたフレンチクルーラーは、上面をチョコレートのフォンダンで仕上げています。フランボワーズとチョコレート、そしてコーヒー豆を牛乳に1日つけて作った“コーヒー牛乳”の味わいをクリームにしたコーヒーフォンダンの3種類。中にはパティシエールを絞り、フランボワーズはジャムも入ってリッチな味わいです。フレーバーは季節によって変わってくるそう。

フレンチクルーラーの中でも、唯一写真の「アマゾンカカオのフレンチクルーラー」は生地の配合を変えているそう。アマゾンカカオは、ペルーのアマゾン奥地に眠るクリオロ種カカオから作られたフルーティーな味わいで現在スイーツ好きに人気が高いです。薄い生地でチュロスのようなもっちりフワッとしたカカオ生地になっています。

鈴木シェフにしか作れない、歴史あるお菓子を楽しめるのもこのお店の醍醐味です。日本には馴染みがなく初めてその名前を聞く人も多いであろう「ヴィジタンティーヌ」(写真手前)は、フィナンシェの前身のようなお菓子なんだとか。フィナンシェが世に出る前に、この形でフランスで食べられていたようでそれを四角い形で量産できるようにし、少し価格帯も抑えた配合にしたのがフィナンシェ。フィナンシェよりもリッチな配合で、アーモンドの美味しさをより感じることができます。
そしてシェフのスペシャリテのひとつ「王様のトルテ」も、ぜひ食べてもらいたい。「王様のトルテ」は、卵は卵黄のみを使い、そこに溶かしバターたっぷりと染みこませ、オーストリア皇帝に献上されたお菓子として知られています。バターが染みこんだ生地なので、冷蔵庫で冷やすとしっとり感とバターのリッチ感が増して、二度美味しいと鈴木シェフ。ぜひ2つ買って食べ比べしてみてください。
他にも紹介したいお菓子がいっぱい。1年熟成させたケーキをはじめ、他のお店では決して食べることのできないお菓子がたくさん並びます。そこには「美味しさの新しい記憶」に刻み込むような、ワクワクする世界が。筆者が“現代に生きる伝説”と呼びたい鈴木シェフのお菓子。ぜひ一度足を運んで、フレンチクルーラーと一緒に古典菓子も楽しんもらえたら。
About Shop
Franse cruller-donut
台東区浅草橋2丁目29-15 須賀ビル102
営業時間:11:00~18:00
定休日:火、水
※お支払いは現金のみになります
Photo&Writing/坂井勇太朗(ufu.編集長)
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